超同棲時代
三文士
第1話 カズヤと感性万年枯渇ババア(私)
彼氏のカズヤはいつだって不機嫌だ。
テレビをつけると
「クソだ!こんなの終わってる!猿どもめ!チンパンカルチャー!」
と意味不明な言葉を喚く。
「なんでよー。テレビドラマ見たいんだけどー」
ってあたしが言うと
「テェレェビィドォラマぁ?こんなご時世にまだそんな時代錯誤の娯楽に取り憑かれているのか!バブルはとっくに終わったんだぞ!」
と必ずいう。
この間も
「あっ今日『ワカメの花』じゃん!みよー」
とテレビをつけたら、ドラマを見ながらとなりで終始文句を言っていた。
「なんだ!この演出は!クソだ!スポンサーもクソ企業ばっかりだ!売国奴!それにこの俳優の演技!ボーカロイドが喋ってんのか!仮面ライダーやるのが初出演のジュノンボーイの方がまだマシな演技力だ!見る価値ないなこのドラマ!」
「えーそうかなー。面白いけどー」
「こんなありがちで古典落語みたいな分かりきったドラマなにが面白いんだ!終わってる!感性終わってるぞ!」
「ええ!?じゃあこのあとどうなるの?」
「この売れっ子女優がやってる主人公が死ぬ」
「え?嘘でしょマジで!?」
「ありがちな展開だ。全国で予想できてないのお前と今朝の情報番組に出てたアホタレントだけだ」
「マジで!?ショックー!」
結果死ななかった。
カズヤの予想はよく外れる。
むしろ当たったことはない。
このことで後に問いただしたら
「ウルサイ!そんなこと言ってない!バーカバーカ!お婆ちゃん!コンピューターお婆ちゃん!」
と言われた。
「なにそれ!まだ26なんだけど!言い過ぎだよ!お婆ちゃんは言い過ぎなんですけど!」
と、半ベソで言い返したら
「なんでもかんでもすぐヒトの話を鵜呑みにするからお婆ちゃんだ!すぐ布団とか買っちゃうし、すぐ振り込んじゃうからだ!」
こんな具合に飛躍し過ぎてついていけない時もある。
だがもしかすると、そういうところも好きなのかもしれない。
カズヤはテレビ番組の中でもとりわけ歌謡祭が嫌いだ。酷い時は無理矢理消そうとするくらいだ。
「クソだ!カスだ!こんなの音楽じゃない!コイツら音楽家じゃない!全員フリーターだ!無職だ!バイトサブリーダーだ!」
「そんな、言い過ぎだよ。あたしの好きなバンドも出てるんだよ?」
「なんだ?こんな野糞番組に出るようなバンドが好きなのか?終わってる!感性万年枯渇ババア!」
「ちょ!いまなんつった?!酷い!ババアは酷い!」
「そこか!責めるとこ違うだろ!感性を守れよ!」
「なんでもいいけどHANIWAの演奏だけは見るかんね!」
「ふん。聞いたこともない。どうせウサギの糞みたいなオモチャバンドだろ」
「スゴいいい歌歌ってんだから!『セイシュン思い出せ』超名曲だから!」
「はんっ。ありがちな薄っぺらい曲だろどうせ。あーあ。無駄無駄無駄無駄」
メッチャ泣いていた。
カズヤ、HANIWAの曲聴いて号泣してた。
「オォウオウオウオウ、ええっヴェヴェ」
おまけになんか凄く汚い泣き方だった。
鼻水とよだれと涙と、あと鼻毛も少し出ていた。
あたしはそれ以来、HANIWAが少し嫌いになった。
こんな感じで、あたしとカズヤは同棲してる。
カズヤはあたしの6個歳上でややデブで薄っすら薄い頭をしてて、泣いてる顔がビビるくらいブスだ。
だけどあたしはカズヤの泣いてる顔以外は割と嫌いじゃない。
あたしたちは同棲している。
しかし後々よく考えたら、感性万年枯渇ババアだけは、どうしたって酷すぎた。
続ける
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