タイム・リセット

@rakurai888

第1話 天国の楽園

未来への道は、一本道ではなく無数に別れているはず。何かを選んだり、何かをあきらめたり、何かを見過ごしたり、とんだ勘違いしたり、夜更かししたり寝過ごしたり、飲みすぎたりあれやこれやが…未来の分岐点になるとしたら、何度もリセットしながら人生を味わうのは…それがたとえ他人の幸福のためだとしても、私は御免だわ。と、通りすがりの彼女は僕に告げました…。


 空を突き刺すように立ち並ぶビル。


その中で一段高く聳え立つ超高層ビルがある。


言葉に言い表せない高さ、下から最上階を見上げれば首を痛めること間違いなしのビルだ。


高層ビルにつきもののビル風…時折、台風並みの突風がビル周辺に突然起こる。 しかし、この超巨大高層ビルの周辺には、その突風はほとんど見られない。


 この巨大建造物には各階の壁際に扇風機を横にして取り付けたようなものが無数にせり出している。一つ一つの羽根が風を受けて勢い良く回っている。巨大なビルに比べればその扇風機様の装置はは小さく見えるが、大きさにして二メートル四方の枠内に四つの羽根が取り付けてある代物だ。一片の羽根の長さだけでも子供の背丈ほどある。

 四角い頑丈な枠は、それぞれ好き勝手な方向に向きを変えている。向きを変えると言っても、枠と壁を繋ぐ支柱が回転するだけの装置が付いてるのみ。

 コンピューター制御で風の流れの変化を微調整しながら、羽根の回転の速さを変えている。

 勢いよく回る羽根が風のエネルギーを吸収し、地上へ向かう風の勢いをなくすシステムだ。

そして、その吸収されたエネルギーはこのビルの発電に置き換わる。

    

ビル全体が使う電気の五分の一はこのビル風により賄われる。

 ビルの高さは、約千メートル。

尋常な高さではない。

 階数にすれば二百階建て。

 ビルの名は、ソウルオブジャパン。ソウルは都市の名前ではなく魂という意味で名づけられた。日本の魂、そんな感じで命名された。

 しかし、世間ではもう一つの名で知られている。

 

「天国の楽園」と。


 最新の制震技術を駆使し、世界一高くそして世界一安全なビルの巨大建築物。

注目されたのは、その大きさ、高さ、安全性だけではない。

 

このビルにはあるモノが備わっていた。

 

 

それは屋上にあった。


 そこは緑が溢れていた。

 独自に開発された特殊な人工の土が屋上に敷き詰められ、松や桜、楓、銀杏、等の木々が整然と植えられている。

 周りには草花が咲き乱れる野原もつくられている。

 そこには普通に田園風景が広がっていた。


 小川が流れ、、電気自動車が走れる舗装道路もある。


その緑あふれる屋上は、敷地に換算すれば悠に四千坪以上。

ところどころに池が造られ,そこには鯉が泳ぎ回っている。

 ジョギングができる遊歩道もある。

 

 芝生が広がりゴルフの打ちっぱなしのネットが張られ、ハーフコースも設置されている。


ドーム型の格子状の強化ガラスで囲われた室内プールがある。


 屋上の真ん中で一人佇めば、森を切り開いたリゾート地にいるのかと誰もが錯覚するだろう。

 しかしここは屋上だ。

 

 周りは、二重に頑丈な特殊合金の柵に囲まれた屋上なのだ。


 そこから外を覗けば眼下に雲海が広がっている。

 雲の上の別世界。

 まさしくここは天国に一番近い楽園といえる。

 

 その屋上の南端には平屋のペントハウスがある。

 ペントハウスの上にはへリポートがあり、そこに特注で作られたと思われる巨大な流線型のジェットヘリがゆっくりとプロペラを回転させていた。


 ペントハウスの中では 二人の男女が肩を並べ立っていた。

 2人はガラス窓の向こうに見える壮大な夕日を眺めていた。

 

「すごい景色ね」女は呟いた。


「うん。こんな高いところから見る夕日なんて初めてだ」男は言った。


 男の名は、酒井次郎(さかいじろう)。


 隣の女性は妻の恭子(きょうこ)。


 五十代前半と思われる中年の二人は窓の外に見える深紅の夕日に見とれていた。

 

 

 広い室内にはソファーが置かれ、床は赤い絨毯が敷き詰められていた。壁は総檜、木の香りが部屋中に充満している。

 周りは贅を尽くした調度品が数多く置かれてある。


「やあ,よく来てくれた」突然、甲高い声が部屋に木霊した。


 ドアの前に恰幅のいい白スーツの男が立っていた。年齢は六十代前半ぐらいだろうか。

 隣には、同じく白のスーツ姿の女性が立っている。


 「綺麗な夕焼け!久し振りに見るわ」とスーツの女性が感嘆の声を上げた。


 「社長、入社以来いつもお目を掛けていただきありがとうございます。それにこの度は、私ごときに部長という大役を仰せつかり、勤まるかどうか戸惑っている次第です。なんてお礼を申していいのか」

 酒井は小走りに白スーツの男の前に出向き、そう言いながら深々と頭を下げた。

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