フィナーレの先も二人で、共に。
こばかい
終焉の炎を見上げて。
「これで…全部終わり、か…」
世界が終わる。世界が滅ぶ。この戦争に勝利者はついにいなくなった。
――人類が皆、敗者になる事が確定した。
「こふっ…」
血を吐いた。左肩から先が無くなり、脇腹に大穴が空いているというのにまだ血が吐ける事に何故か面白くすら思えてしまう。
戦火と燻った煙があちこちで上がっている。
だが、そんなものに目は届かない、それよりも曇天を掻き分け空から落ちてくる『アレ』が不謹慎にも美しく思えてしまったからだ。
世界を終わらすアレ。世界を滅ぼすアレ。人類は皆、敗者となった。
血の気が抜けていく、体の先から凍りついていくような寒さがどんどん広がっていく。
「あんたさ…最初から馬鹿だとは思っていた、けどさ…」
まだ温もりがあった。
右腕に抱いた彼女の熱だけが、未だ俺の意識を繋ぐ楔だった。
「こんな…馬鹿をしでかすとは、流石に…思わなかったよ」
途切れ途切れの声。
世界を終わらせる終焉の魔法は俺一人では成し得なかった。
彼女がいたから、俺は最後に世界を滅ぼすことができる。
「その馬鹿に最後まで付き合うって言った奴も同じくらい馬鹿だろ」
「はは…違いない。アレよりも熱い告白されちゃ…ね…」
力の無い腕で空を指差す、天空を割って落ちてくる火球を彼女の左手が指し示す。
「…悪い、左腕無くしちまった」
「なんだよ、指輪二つで全財産使ったんだろ?」
「ああ、世界を終わらせるからな。銭なんか残したって仕方がないさ」
「全く…甲斐性のない旦那を貰ったものだよ。 ――ほら、まだ私のがあるだろ」
彼女の左手と俺の右手が指を絡めて繋ぐ。
暖かい彼女の手の中に僅かな冷たさが心地よい。
「うまく…いくかな」
彼女の弱気な言葉は珍しい、いや初めてだったかもしれない。
だけど、何も気にする事はなかった。
「上手くいくさ」
「何でそんな自信が、あるのよ」
「君と俺でやったから、さ…。俺一人じゃ成し得なかったかも知れないが、君がいたから絶対、大丈夫」
「そう…いう事に、しとく…わ」
お互い満身創痍だが、世界の終焉の訪れのが早いだろうか。
夕暮れでもないのに空が赤く燃え上がる。夜空の黒と真紅がぐるぐると混ざり合って、空が落ちていく。
人類に勝者はいない。しかし、敗者になるのはこの、今の人類だけだ。
これは巻き戻しの魔法だ。世界の魔力を焼き尽くして魔法のない世界としてきっと人類は三千年前から再び歩み始めるのだろう。
この世界が終わる。俺と彼女が一緒に過ごした世界はなかった事になる。
人類には悪いが二人で勝手に決めた事だ。
「なぁ…平和な世界でも俺と出会ってくれよ」
「どうだかね…あんたの馬鹿が平和な世界ではただのお荷物かもね…でも、うん、見つける。絶対。全財産の指輪よりも、おもちゃの指輪でいいから家を買ってさ…家族になって――」
世界が終わる――。終わる世界で未来を語った五分は永遠に等しい温もりが確かにあった。
フィナーレの先も二人で、共に。 こばかい @kobakai22
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