ガチャる未来

リーマン一号

ガチャる未来

石橋を叩いて渡り、転ばぬ先の杖を常備する。


それが当たり前となった現代において、消費の伸び悩みは非常に深刻な問題となっていた。


貯蓄ばかりに気を取られ、節約節約で世を回せば、自ずと金回りは悪くなり、ひいてはデフレのスパイラル。


人々は預金高を見て「足りない足りない」と頭を抱え、さらに財布の紐は固く閉じる。


しかし、そんな状況に一陣の光が射した。


それこそ、政府は出した新たな政策。


『人類ガチャ計画』である。


・・・


午前の仕事を終えた昼休み、私はいつもの定食屋に足を運ぶと、財布から千円札を抜き取り食券機に放り込む。


しばらく券売機とにらめっこをし、狙いを定めたその瞬間。


私がボタンを押すよりも早く券売機から大きな声が響き渡った。


「ルーレットスタート!!」


騒々しいミュージックと共に次々と料理名が書かれたランプが光る。


唐揚げ定食、煮魚定食、オムライスに醤油ラーメン。


千円で買うにふさわしい料理。


上ステーキランチ、すき焼き定食、本マグロ御前。


今度は千円では手の届かないはずの料理も点滅する。


普通は手に汗握る瞬間。


でも、運命の女神様とやらにとことん嫌われた私はルーレットが回り始めた瞬間に興味を無くしカウンターに席を構える。


そして、案の定私のもとに運ばれて来たのは生卵と白いライスのみ。


無言のまま卵を割って白米と混ぜ合わせると、隣の席にサラリーマンが座った。


首にはナプキンをかけ、手元には肉汁滴るステーキプレート。


私は常に彼らの養分だ。


黄ばんだ米に醤油を垂らし、般若のように飯をかき込んでから店を後にした私を待っていたのはまたしても受難であった。




仕事に戻った私のデスクの上には給与明細があり、中身を確認してみれば額面が半分にされている。


天に手を挙げガッツポーズのまま固まっている隣の席の同僚を横目に、私はがむしゃらに仕事をこなした。


午後の仕事を終えトボトボ帰路に着いた私は、電車の改札口で駅員に尋ねた。


「切符を定価で売ってくれないだろうか?」


「は?人類ガチャ計画を知っているでしょう?ふざけたこと言ってないで券売機に並んでください」


そう。


落ち込んだ景気を取り戻す為にガチャの要素を取り込んだ人類ガチャ計画。


これは今や当たり前となった。


給与に雑貨に食事に運動、ありとあらゆる物に運要素を含むことを強制したこの政策は、国民の消費意欲を鷲掴みにしたことで、経済はうなぎ上り、景気は回復。


バブル再生期とも言われるほどの2度目の経済成長期を迎えた日本では誰も彼もがこの変化を好意的に受け止め、知り合いに「最近どうよ」と話題を振れば返ってくるのは100%ガチャの話。


だが、無下にされた存在もいる。


私のような圧倒的に運のない人間だ。


結局、たった一駅隣に行くのに私が払ったのは1万円。


外れくじを使い果たした券売機からひねり出した一枚だ。


プラットフォームで電車を待ち、ボーと広告を眺めていると回送列車が近づいてきた。


ガタンゴトン、ガタンゴトン。


電車は速度を落とさない。


ガタンゴトン、ガタンゴトン。


私の体は風に揺れる。


ガタンゴトン、ガタンゴトン。


「もう耐えられない」


ガタンゴトン、ガタン・・・


どうやら私は線路に飛び出したらしい。


死に装束の人間が列を成し、一歩また一歩とどこかへ向かおうとしている。


天国だろうか? それとも地獄だろうか?


私の中に焦りはない。


どこであろうと現世よりマシだ。


後光漂う道の先には黄金に輝く何か。


一体何があるのだろうかと、目を凝らしてみれば身に覚えのある何か。


「やめてくれ。もうやめてくれ・・・」


体は勝手に何かに近づく。


「戻りたくない!戻りたくない!戻りたくない!!」


そこに自分の意志は存在しない。


「やめてくれぇええええええええええ!!」






さぁ、あなたの次の出生を決めましょう。


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