最高のバッドエンド

河咲愛乃

最高のバッドエンド

「あなたは5分後に消失します。」

機械のように感情のない声で彼女は言った。

あ、そうなんだ。

私はそう思った。悲しいとかもっと存在していたいとか普通の人は思うんだろうけど私は何も思わなかった。あ、そうなんだ。これだけだ。

最後だし何かしようと思って。

私は白いパーカーを引っ掛けて外に出た。ぶらぶらと夕焼けの出ている小道を歩いているうちに喉が渇いたから自動販売機で大好きな飲み物を買った。

「最後はこれでいいよね。」

缶の蓋を開けて一気に飲み干した。そして隣にあるゴミ箱に入れてまたぶらぶら歩き始めた。今度は赤い空を見上げて歩いた。そのせいで案の定田んぼに落ちた。でもそれでもいいやと思ってドロドロの服を着たまま田んぼの中を歩いた。

「おーいお前何してんだよ。」

自転車に乗っている彼を見て私はいいことを思いついた。田んぼから抜け出して自転車の横に立った。残り4分。

「それ借りるね。この辺探せば見つかると思うからよろしく。」

「あ、いいよ。ってか俺の質問答えろよな。」

そういえば聞かれていたことを思い出し、散歩とだけ答えた。

「ありがと」

そう一言言って最大限の速さで自転車をこいだ。まずは駄菓子屋のおばちゃん。

まっすぐ行ってすぐ右手に見える小さな駄菓子屋。そこに入っていつものお菓子をとった。

「おばちゃーん、これちょうだい。」

「はいよ、20円だよ。」

「ん、ありがと。」

20円を払って飴玉を口に放り入れるとじわじわとブドウの味が広がっていった。残り3分。次は猫じーちゃん。いっぱい猫を飼ってるから猫じーちゃん。

角の家の庭にいつも出てる。一番のお気に入りは三毛猫のくーだ。

「やっほー猫じーちゃん猫いる?」

「おお、いるぞ可愛いだろ。」

「癒しだよ。ありがと。」

適当に撫でてからまた次の目的地に走り始めた。残り2分。

次はあいつらか。こんな私を友達にしてくれた女子2人。

「久しぶりー!」

「久しぶりー元気だった?」

「服だいじょうぶ?」

「元気元気、服はまあ大丈夫だろう。」

「そかそか、なら良かった。でもなんかドロドロだからこのパーカーあげるよ。その元真っ白パーカーと交換で。」

「助かる。ありがと。」

もらった青いパーカーに着替えて最後の場所に行った。

「最後はどこに行くつもりですか?」

頭上から突然彼女が現れて驚いた。まさかずっと追いかけてきているとは思ってなかった。

「ん?最後は無難に一人ですな。間に合うかわからないけど。」

最後にいきたいところ。それは山の頂上だった。私がまだ小さくて両親も存在していた時に一度だけ行った家族での外出。最後はそこに行こうかな。

「後30秒。」

「あーもううるさい!!」

急な山の斜面を登るためひたすら足を動かし続ける。私の夕焼けが見えるまで。

その光を頼りに回し続ける。

ついた。その瞬間に私の体は足元から細かな粒となって消えていった。

「頑張れ。」

この言葉を残して。


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最高のバッドエンド 河咲愛乃 @sakura-1231

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