日記
ケンシ
8月31日
海に向かって叫ぶ夢をみた。
その人はおそらく自分だった訳だけど、ここでは君と呼ぶことにする。
君はまだ幼かった。背丈から察するにまだ小学生低学年のようだった。
陽光の映える波の前で、しっかりと地平線を見据え、堂々たる態度で立っていた。まるで数多の海を越えてきた旅人のように。
私はそれを後ろから見守っていた。もちろん君は気付かずに真っ直ぐに前を見ていた。
そして君は何かを叫んだ。何を叫んだかは覚えていない訳だけれど、おそらくは将来の夢だとか、目標だとか、そういった類いのことだと思う。君の考えていたことなんて、まあそんなところだろうから。
小さい頃の将来の夢はなんだったか、当然そんな疑問にぶつかったんだけれど、なぜか覚えていない。君が叫んでいたのが一字一句正確に聞こえていたならまあ、そんなことはないんだろうけど、遠い昔のことなど忘れてしまった。万が一、君が私に宛てた手紙などを残していて、将来の夢を、そしてそれが叶っているかなどを綴っていたなら、こんなに思いを巡らせる事もなかっただろう。ただ君はそんな粋なことをしないから、机の上を、埃被った本棚を、そして記憶の片隅まで探したところで、そんなものは見つからない。
そうだ、そんな探し物をしているときに気づいたことが1つあった。それは、君が海を見たことがないということだ。もちろん、テレビや映画とかで見たことはあるんだけれど、直接、その目では見たことがない。
このことは私にとってはそう大きな問題ではないのだけれど、この話に於いては、それは新たな展開を導く契機となった。
夢の中の君はもしかしたら君じゃないのではという疑問が生まれたのだ。
では君は誰なのか。私の考えの中では、君は私の子どもなのだと思う。君が小さい頃の私だと思ったのもちらりと見えた顔が似ていたせいで、しかも過去の話なんだと勝手に解釈していたせいだ。これはきっと未来の話、これから少し先の、将来の話ではないのだろうか。もしそうならば、私は君に何パーセントかの私を重ねていることになる。
ただ、今の私には、恋人と呼べる人はもういない。未来というものは誰にも予想できないということを感じさせられた。
君が叫び終わり、少ししたところで目を覚ましてしまったわけだけれど、私はその夢に続きがある気がしてならない。
その夢の中の君と私との距離。その距離を今の君と私との距離とするなら、私が思っていたよりはそう遠くはない。また会えるならどれだけ嬉しいことだろう。会えたときは、たくさん話をしよう。私の知らない未来の話。
そうして、また教えてほしい。
それすらも夢なんだと。
日記 ケンシ @graff
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