われら世界のヒーロー!

〇〇〇〇

私は世界のヒーローだ!

 私は、この世界のヒーローだ。

 残念ながら、世界はあと5分で滅亡めつぼうしてしまう。


 それでも私は、ヒーローなのだ。

 救いを求める声あれば、どこであろうとけつけて、誰であろうと助けだす。



 おや、どこからか助けを呼ぶ声が。

 とぅ!

 私が来たからには、もう安心だ。

 必殺!

 【ナイフもろとも粉砕ふんさいパンチ】

 どうだ、まいったか!



 おや、また、どこからか助けを呼ぶ声が。

 とぅ!

 毒ガスなど、私の肺活はいかつりょうで一撃だ。

 必殺!

 【山をもかき消すロケットブレス】

 どうだ、まいったか!



 おや、またまた、どこからか助けを呼ぶ声が。

 とぅ!

 爆弾ばくだんなど、私の強靭きょうじんな肉体で封殺ふうさつだ。

 必殺!

 【握りつぶせばすべてゼロ】

 どうだ、まいったか!



 おや、またまたまた、どこからか助けを呼ぶ声が。

 とぅ!

 大量たいりょう破壊はかい兵器へいきなど、私の偉大いだいさで無力化だ。

 必殺!

 【下ろすこの手はジョーカーです】

 どうだ、まいったか!



 しかし、どういうことなのだ。

 世界が滅亡するというのに、こんなにも凶悪きょうあくな事件が続くなんて。


 こう見えて、私にも限界はあるのだ。

 時間がなければ、救えるものも救えない。


 まだ生きたいという声が、こんなにも強くひびいているというのに――!


 仕方しかたがない。


 無理を承知しょうちで、世界の滅亡を遅らせてみようか。

 力は失ってしまうかもしれないが、人々を救うためならばしくはない。



 だが待てよ。



 滅亡までの時間がびても、その分、事件が増えるだけかもしれない。

 私の力がおとろえることで、より巨大な悪が、はばかせてしまうかもしれない。


 それはたして、人々を救うことにつながるのだろうか。



 おや、どこからかさけび声が。

 とぅ!

 悪辣あくらつな宗教など、私の後光ごこう一蹴いっしゅうだ。

 必殺!

 【安易あんいな救いにだまされてはいけないプロパガンダ】

 どうだ、まいったか!



 おや、どこからかなげく声が。

 とぅ!

 家族であろうと、勝手な押しつけは許さない。

 必殺!

 【心中ダメ絶対マインドコントロール】

 どうだ、まいったか!



 おや、どこからか下卑げびた笑い声が。

 とぅ!

 とうとう見つけたぞ! 世界の滅亡をたくらむヴィランめ!

 くらえ、必殺!

 【折るのは首だロボトミー】

 どうだ、まいったか!



 これで世界は、滅亡の危機からだっした。

 ついに世界は、救われたのだ。



 しかし、どういうことなのだ。

 人々はいまだに下を向き、絶望の色を濃くしている。

 あれだけ大きかった生への思いは、今となっては見る影もない。



 だというのに――



 救いを願う声だけは、より鮮明に聞こえてきている。

 これは、まだまだ、私の力が足りないということなのだろうか。



 いや違う。



 これは――



 そうか。


 そういうことなのか。



 ならば――



 私は世界のヒーローだ!


 人々を救うために、私は戦う!


 とぅ!

 これで最後だ、世界よ。

 必殺!


 【片手かたてゆびり数える救済きゅうさい


 世界はあと5分で滅亡する。



 どうだ。


 まいったか。

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