▼3▲
「新成一です。こんな時季外れの意味不明な転校ですが、よろしくお願いします」
そんな挨拶も早くに済ませ、今はもう昼休み。登校時に会った三人とは同じクラスだったがそれ以外のヒロインとは出会えていない。なので成一は情報を集めに校内を回ろうとしたが、その矢先。
「新くん、お疲れ様。転校初日で授業とか大丈夫だった?」
「御厨さん。特に問題はなかったよ、履修範囲だったから」
「そっか。でも勉強は大丈夫でも、学校にはまだ慣れていないよね? お弁当?」
「いや」
「だったら私も学食だから、そのついでに学校案内はいかがでしょう?」
「それ、委員長だから?」
「うん、委員長だから♪」
屈託のない笑顔を向けられて、成一は同じく微笑を返す。
「じゃあ、よろしく。今朝もそうだったけど、助け船ありがとう」
「どういたしまして」
席から立ち上がり、そう言えばお金はあるのだろうかとサーペントに聞くと、
『気にしなくて平気だよ。必要な金銭は自動で支払われるようになってるから』
『なら俺は、何でも買い放題ってことなのか?』
『ヒロインとのイベントで必要ならね。それ以外じゃ君は何かを食べる必要もない仕様だよ。睡眠も、寝ようとしなければ不要だね。つまり君はヒロインとの関係構築だけに気を回せる』
『……どっちがゲームのキャラか分からなくなる仕様だな……』
だがそれも当然のことだった。何もせず引きこもってもあと三週間――一700時間後には殺されるデス・ゲームの席に自分は座らされているのだから。
(至上目的はハッピーエンド……か)
そんな必死の打算を強いられているなどと想像も出来ないだろう、委員長からの「じゃあ行こっか」という誘いに成一は内心の重さを悟られないよう、晴れやかな顔つきで付いていった。
――が。
「ちょおおおおっと待ったああああああああああ!!」
騒がしい声と共に暑苦しい体格の男が颯爽と立ちはだかり、
「御厨委員長! 転校生の案内でしたら、この
「えっ? ああ、だけど……」
「委員長はいつも激務でお疲れですからッ、雑務はこの『お
『……。サーペント』
『なにかな?』
『この八〇年代の少年漫画チックな熱血男はなんだ、ヒロインを巡るライバルキャラか?』
『いやー単なるお騒がせの賑やかし。友人にするも良し、引き立て役にするも良し。お好みで活用して大丈夫。ヒロインには具体的な手出しを一切しないプレーヤー安心のモブの一人だ。ヒロインを攻略できるのはただ一人、現実世界から招かれたプレーヤーのみだからね』
『無慈悲だな……』
成一は心底この男に深い哀れみの情を覚えていた。だが。
「我らお雛様親衛隊はッ!」
「この桃花高校の誉である、文武両道の御厨雛子嬢が行うあらゆる学校活動を支援しッ!」
「前門に虎あれば薙ぎ払い!」「後門に狼あらば討ち果たす!」「
「全学年・ラブ雛・男子が結んだ紳士協定同盟である!!」
『――要するに、御厨攻略におけるお邪魔キャラか』
気付くと森部の背後に覆面男子が何人も集っていた。中々にリアリティ無視な連中だなあとノリの良さに感心しつつ、成一はこんなテンションになれたら気楽だなとも嘆息する。
「……委員長に迷惑かけるみたいだな、いいよ、今回は」
そう言って遠慮して、当初の予定通り単独での校内観察を行おうと切り替えた。しかし、
「森部くん、どいて」
「えっ」
「
「あっ、はぃい!! 撤収ッ!!」
森部以下、親衛隊各員は一斉に散らばって去っていった。
「……随分と統制がとれているんだな」
「うん、みんな良い人たちなんだよ♪」
口調の温度差とは別に終始にこやかな委員長。この学校には彼女をピラミッドの頂点とする鋼鉄のヒエラルキーが存在している、そう成一は察していた。
『彼女と仲良くなっておけば、確かに色々なサポートを期待できるかもしれないな』
『なんだか陰謀でも企んでるみたいになってきたねえ』
『真剣に向き合えって言って鉛玉を喰らわせたのはどこのどいつだ? ――必死にもなる』
改めて決意する。死ぬのも痛いのも御免だった。そのために、
「じゃあ今度こそゴハン食べに行こっか。うちの学食は何でもおいしいよ!」
……利用する、最大限に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます