▼1▲ ‐残り二十一日‐
「さて、じゃあゲーム開始といこう! まずはこの【RPG】から、記号を一つ選んでくれ。それがこのゲームにおける君の主人公補正になる。主人公補正っていうのはね……」
「知ってるよ。つまりは特殊能力だろ、ご都合主義のチートスキル」
「話早っ! もっともこれは一回きりのボーナスでね、内容はどれもシークレットさ!」
つまり現時点で効果の詳細は分からない。
何とも頼りない能力だなと思いつつ、成一は空中に浮かぶアルファベットを指さした。
さっきまで四肢を縛っていた手錠はもう無くて、
「……なら、【R】で」
「OK! 次は舞台となるこの世界の説明だ。窓の外を見てくれ」
「知らない風景だ」
「その通り。この部屋から外はもうゲームの舞台【
「だったら今日は十二月三日――日曜か」
記憶を探り、この日は特に何もなかったことを思い出す。
ひとまず誰かに連絡をと成一は携帯を操作した。しかしアドレス帳のどれを押しても通話ができない。念のため記録してない番号もコールする。が、
「繋がらないだろう? 誰にかけたんだい」
「……父さんだ。この調子じゃ、メールもか? ネットは使えるみたいだが――」
「うん、君の持ってる電話番号や各種アカウントは使えるけど現実世界には繋がらない。もう試してたみたいだけど、LOLの情報も載っていないから調査は不可能。いやー、物わかりがよくて助かるよ!」
「……。まあ、素直に受け入れた方がスムーズに進行できるしな」
「いい開き直りだっ。ではこれからの一週間、ボクは君という孤独なプレーヤーをこの環境に適応させるため、メンタルケアも含めがっちりサポートするよ! 今後ともヨロシク!」
「ほお、そうか。なら早速お願いがあるんだが……」
「いいよ、プレーヤーの頼みとあれば受けてみせる!」
「だったら俺の、今後のプレイを円滑にする上で重要な……このストレスの解消に」
息をはく。力の限り拳を握る。そして、
「――とにかく一発殴らせろッ、この蛇野郎!!」
渾身の右ストレートを叩きこんだ。ぬいぐるみのボディが自室の壁を四方八方に跳ね回る。サーペントは「うぼあー!」と気の抜けた声をあげ、
「うぅ……痛いよ成一くん……」
たった一発で目に痣を作り燕尾服もぼろぼろに。だが実際にはダメージなど負っておらず、見た目だけ変化させたと分かっていた。
それにうんざりしつつ成一は、
「俺の生殺与奪を握っている奴がだぞ、ゲームの日付上とはいえ一週間も付きっきりなんだ。真剣にプレイしてやるからこれくらいは大目に見ろ」
言い返してまた深く呼吸をし、体内に新しい空気を吹き込んだ。
そして鬱屈した気持ちを切り替えて――状況を整理する。成一は不毛な行為が嫌いだった。
「で、俺はこれからどうすればいい?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた! とりあえず君は明日から【
えっへんと腰に翼を当てるサーペント。既に姿は元通り。成一はそれに呆れつつ、
「……攻略可能なヒロインってのは、一目で分かるものなのか?」
「うん、ボクがそうだと教えるからその辺は心配しなくていい。この一週間は特定のルートに入るまで何十人も現れることになっていてねー、その解説が忙しいんだよ。ほら、この画面を見てみて、こんなにたくさん、よりどりみどり!」
サーペントは空中に画面を表示させ、いかにもな美少女画像群をカタログ的にスクロール。しかし成一の無反応に半目になって、
「――それにしても君は、いわゆる二次元の世界に入れたっていうのに、少しも嬉しそうじゃないねえ? こんな恋愛ゲームを起動させたくせに。それに誰もが召喚されるわけじゃない、あの設問以外にも厳しい条件を突破しなきゃ来られないんだよ?」
「……。俺も別に、好きで起動させたわけじゃない」
「ふうん。その理由ってもしかして、君がしてる邪気眼的な左手の包帯と関係あるのかい?」
「っ、邪気眼とか言うな! れっきとした傷痕だ!! それにあんな、痛い思いをさせられて、すぐ切り替えて楽しむなんて出来るわけないだろ!」
「んー、まあそれもそうだね。ところで外には出ないのかな? 今の君はドアを開けただけでフラグを立てられるような恋愛補正が【R】とは別にかかっているんだけど?」
「……。ああ、今日は出ない。それよりサーペント、頼みがある」
「なにかな。またボクを殴ってストレス解消かい」
「さっさと明日に時間を進めてくれ。出来るだろ」
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