第17話そうだ、テーマパークに行こう! ~タマ いん わんだーらんど1~
言い出したのは例によって晴人だった。
「日曜日、みんなでGLJ行かねーか?」
「おっ、良いねぇ」
「賛成!」
「行ってみたいと思ってたんだ~」
「異議無し」
「行くにゃ!」
盛り上がる健一達。タマも嬉しそうに言った後、きょとんとした顔で言った。
「ところで、GLJってにゃに?」
『GLJ』とは豊臣学園から電車を乗り継いで一時間程の所にあるテーマパーク『グローバルランドジャパン』の事である。映画の世界に入り込んだ様なパークが評判の人気スポットなのだが入場料と交通費、そしてパーク内での飲食費を考えると寮住まいの晴人達には少々敷居が高くてなかなか行けなかったのだ。
「とは言ったものの、みんな……小遣い、大丈夫か?」
みんなの懐具合を気にする晴人に建一と淳二が笑いながら応えた。
「暫く昼飯はきつねうどんだけになっちまうかもしれんがな」
「遊ぶ時はぱーっといかないとな」
夢の国とも言えるGLJ行きに建一と淳二が乗り気なのが意外だったが、とにかく後の財政難よりみんなでGLJに行く楽しみの方が大きい様だ。
「そう、じゃあ決まりね。日曜が楽しみだわ」
「楽しみだにゃ!」
楽しそうに由紀が言うとタマも手を上げ、飛び上がらんばかりに喜んだ。
土曜日の放課後。
「いよいよ明日だなー」
「行ってみたかったんだよね~、GLJ」
「おう、楽しみだぜ」
「男はやっぱ絶叫系だよな」
男達は気楽な事を言う。
「何着て行こっかな~?」
「せっかくのGLJだもんね、おしゃれしなきゃ」
「でも、スカートだったら動きにくいんじゃない? やっぱりここはパンツで……」
「おしゃれするにゃ!」
女の子達はファッションも考えて楽しそうに盛り上がっている。
「明日、チケット売り場で並ぶのめんどいから今からコンビニでチケット買っとくか」
「おう、そいつは良いな」
「よし、早速行こうぜ」
前売りの入場券を買っておこうという晴人が提案した。せっかく遠くのGLJまで行くのだ、並んでいる間に時間が経ってしまったら遊ぶ時間が短くなってしまう。これには全員が賛同し、みんなで近くのコンビニエンスストアに行く事になった。
学園近くのコンビニエンスストアにぞろぞろと連れ立って入る晴人達。入口すぐ横にチケット販売の機械が置いてある……のは知っている。だが、使った事がある者は一人もいなかった。
「コレ、どうすんだ?」
「さあ」
「こーゆーの、綾が得意なんじゃない? 頼んだわよ、綾」
「えっ、私? ……うん、わかった。やってみる」
綾は機械の操作を由紀に押し付けられ、恐る恐る画面に手を伸ばした。
「おっ、GLJって出て来たぞ」
「前売り券になるんだよな」
「年間パスポートだって。一年間行き放題なんだ。良いな~……って、高い!」
「これで良いのかな?」
周りで建一や由紀が騒ぐ中、綾が画面にタッチすると機械からレシートみたいな紙が吐き出された。
「コレをレジに持ってけば良いんだよね」
「おう、ちょっと待ってくれ。せっかく来たんだから雑誌でも見ていこうぜ」
言いながら健一は機械の横にある雑誌コーナーに移動した。
「おっ、タマ。コレ見てみろよ」
健一が一冊の雑誌をタマに手渡してやったのは、GLJのムック本だった。本を開くと鮮やかなパーク内の写真や様々なアトラクション、キャラクターの紹介。ちなみにGLJの一番人気は猫のミーちゃんというキャラだったりする。
「うわ~、綺麗なところだにゃ。ショッピングモールみたいにゃ」
猫の目は赤や緑をうまく識別できないらしい。人間の目、色覚を得たタマが智香と初めてショッピングモールに行った時の感動がタマの心に蘇る。
「早く明日にならないかにゃ~」
楽しみで仕方がないといった様子のタマ。
「その前に払うモン払わんとな」
現実は厳しい。晴人はポケットから財布を取り出すと健一の声が晴人を呼び止めた。
「もうちょい待ってくれ。今良いトコなんだ」
いつの間にか漫画雑誌を立ち読みしている健一。由紀と結衣はファッション誌に夢中だった。
みんなのお金を集め、レジで支払いを終え、チケットを受け取る。
「明日は早起きだ。今夜は早く寝ようぜ」
「じゃあとっとと帰ってメシにするか」
「まだ四時だぜ、いくらなんでも晩飯にはまだ早いんじゃねぇか?」
「そうだよ。健ちゃん、もうお腹すいたの? アメリカンドッグでも食べていく?」
気の早いことを言う建一に呆れながら淳二と透が言うと、建一が拳を握りしめて辛そうに答えた。
「いや、今日は我慢だ。節約しねぇとな……って、別に腹減ってる訳じゃねぇよ」
建一渾身のノリツッコミだったが、残念な事にそれは見事に滑ってしまった。
翌朝、目を覚ました晴人が建一を起こそうと声をかけた。
「お~い、健一起きろ~」
しかし返事が無い。ベッドは既に蛻の殻だったのだ。目を疑った晴人の背後から声がした。
「もうとっくに起きてるぜ」
歯を磨きながら言う健一。よく見ると目が真っ赤だ。
「こういう時だけは早いんだからな……って、お前、眠れなかっただけだろうが」
「恥ずかしながらその通りだぜ」
「まったく……遠足前日の小学生かよ」
「デリケートだと言ってくれよな」
晴人も顔を洗い、二人で買い置きのパンを齧る。ちなみに学食は授業のある日は朝七時から開いているのだが休日は朝十時からしか開かないので、朝早い場合は自分で朝食を用意しなければならないのだ。
簡単な朝食を済ませると着替えて身だしなみをチェック。
「さあ、行くか」
晴人と建一は意気揚々と部屋を出た。
女の子の朝の支度は大変だ。前日から服を用意していたにもかかわらず
「やっぱりこっちの方がかわいいかな~?」
とか言い出す結衣に
「結衣ちゃん、私のポーチどこにやったっけ?」
出かける直前まで探し物をしている由紀。
順子と綾はそつなく身仕度を整えていた。タマはと言えば……
「タマちゃん、起きなさい。今日はみんなでGLJ行くんでしょ!」
「ふにゃっ、もうこんな時間にゃ!」
タマは夜、なかなか寝付けず、寝坊してしまっていた。
バタバタしながらも、なんとか約束の時間には全員集合。寮から駅まで徒歩で向かう。歩きながら晴人は思った。
――タマって電車乗るの、初めてだよな……――
駅に到着すると
「あ、俺切符まとめて買ってくるよ」
タマが切符の自販機で変な事をしない様に晴人が切符売り場に走る。
「おっ、晴人悪ぃな」
「ありがとう」
健一や結衣の声に混じって由紀の声が。
「いよっ、晴人君って太っ腹!」
その声に晴人が振り返って叫んだ。
「バカ野郎! 後でちゃんと金払えよな!」
切符を渡し、改札へ。順子はタマに見本をみせるかの様にゆっくりと改札機に切符を滑り込ませ、吐き出された切符を取り、バッグにしまう。
「タマ、わかったか? 切符入れたら取るのを忘れんなよ」
「大丈夫、順子ちゃんのマネするにゃ」
タマが変な事をすればすぐフォロー出来る様に晴人はタマの後ろに続く。タマは見事に順子と同じ様に改札をパス。
「グッジョブ、よくやった」
タマの頭をぐりぐりする晴人。
「晴人君、バカにし過ぎだにゃ」
ふくれっ面のタマ。
「電車来たよ~ 早く早く!」
ホームで叫ぶ由紀。もしかしたらタマより由紀の方が恥ずかしいんじゃないか? なんて思ってしまう晴人だった。
電車では何事も無く、何度かの乗り換えでもはぐれる事無く無事にGLJの最寄駅に到着、ホームに降りるとそこは既に夢の国。女の子たちの目がキラキラし出した。
「うわ~凄いにゃあ……」
「ホント、綺麗ねえ」
「駅でこれだから、パーク内は凄いんでしょうね」
改札を出るとそこはパークの正面。人の流れに乗って改札を抜けようと切符を改札機に入れるタマを見て一安心する晴人。だが、いきなりタマは立ち止まって振り返った。
「晴人く~ん、切符が出てこないよ~」
こんな事もあろうかと少し間を開けて改札機を通った晴人は少し歩く速度を落としてタマとの距離を詰める。ぶつかる寸前でタマの肩に手を置き、くるっと百八十度回転させてそのまま押す様に一緒に歩かせる。
「晴人君、切符、切符が~」
焦るタマに晴人は諭す様に言った。
「良いんだ。出口では切符は回収されるんだよ」
「えっ、そーにゃの?」
晴人の言葉にやっと落ち着きを取り戻したタマ。幸い由紀や結衣は先に改札を出て、入場ゲートの奥に見えるモニュメントを夢中になっていた。
チケット売り場には既に長蛇の列が伸びていた。
「昨日チケット買っといて良かったな」
「まったくだ」
「並んでる人って、みんなパークのお客さんなんだよね。中も人でいっぱいなのかなあ?」
入場ゲートも長蛇の列。
「チケット持ってても並ばんといかんのだな」
「日曜だし、しょうがないわね」
「開場まであと十五分ってとこか。もっと早く来るべきだったかな」
うだうだ話をしているうちに時間は経ち、入場ゲートが開き、列が動き出す。
「おっ開いたみたいだぜ」
列の動きに合わせて少しづつ進む。そして、遂に晴人達はパークに足を踏み入れる事が出来た。
「あっ、猫のミーちゃんだ!」
由紀が早速キャラクターを見つけ、大はしゃぎで駆け寄っていくと大声で結衣を呼ぶ。
「結衣ちゃん、一緒に写真撮ろうよ! 早く早く!」
由紀の大人気無い、否、無邪気な姿を建一が鼻で笑う。
「まったくガキだな、由紀はよ。あんな着ぐるみではしゃいじゃってよ」
「着ぐるみなんて無粋な事言うものじゃないわよ」
「そうだぞ建一、中の人なんていないんだからな!」
順子と晴人に咎められた建一に結衣が笑顔でデジカメを手渡した。
「そんな夢の無い人は一緒に写真なんか撮らなくても良いわよね? みんなでミーちゃんと撮りましょ!」
八人でミーちゃんを囲んでの記念撮影が終わるとミーちゃんは別のグループの方へ行ってしまった。
「なんだよ、俺だけ写真無しかよ」
悲しそうな健一に由紀の言葉が突き刺さる。
「あんたは大人なんだからミーちゃんと撮らなくっても良いんでしょ」
落ち込んだ顔の建一だったが、彼の復活は早かった。
「ま、良いや。さっ、早く何か乗ろうぜ!」
楽しそうに叫ぶ建一。やはり男はキャラクターよりも絶叫マシンだと言う事なのだろう。
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