お祭り

「わーっ、嘘でしょ、凄いじゃない!」


パン、パンと乾いた音が鳴る。


俺が打った射的玉は、狙いを寸分たがわず的の中心に吸い込まれる。


美香が勉強をしている間中、俺は射撃ゲームをやっているのだ。


当たり前の事だと思ったが、美香はわあっと歓声をあげた。


「凄いよタッくん、まさかこんな特技があったなんて!」


「別に、これくらい誰でもできるだろ」


「そんなこと無いって!タッくんは凄いじゃない!」


人と露店で溢れかえる石畳の道で、俺は美香と共に夏祭りを謳歌していた。


人混みなんて、前は想像するだけで気分が悪くなったのに、不思議と美香と一緒なら耐えられた。


美香は、店主から一等の景品を貰って、相好を崩す。


微笑ましい彼女の様子に、俺も口元を綻ばせた。



気が付けば、最近は柔らかい心持ちになることが増えていた。


以前は何があっても剣呑な態度だったのに、すっかり丸くなってしまったのだと自覚する。


かつて、学校に行くのを辞めた時に、俺はいくつもの感情を一緒に手放してしまった。


それを、少しずつ取り戻しかけているのだと思うと、嬉しいというよりは、むずがゆい気持ちが込み上げた。


お節介な幼なじみに対しても、自分自身にしても。



大きなりんご飴を舐め、ヨーヨーを片手にかんざしを揺らしている美香を見ると、あんなにも凍りついていた心が、氷解していく心地がした。




大きな音が響き、夜空に大きな花が咲く。


俺は上空を見上げて目を細めた。


「あっ、花火だー!」


隣に立って居た美香が、文字通りぱあっと顔を輝かせて花火を指差す。


そして、俺に向かって笑いかけた。


「ねえ花火、花火だよ!」


「ああ、そうだな」


俺も微笑み返すと、不意に美香は表情を消して、俺から顔を逸らした。


「……ごめんね、タッくん」


「なんだよ、急に」


「こういう日じゃなきゃ言えない気がして」


美香は、寂しそうな表情を覗かせた。


「もしかしたら、タッくんはあたしと一緒に外に出るのが嫌かもしれないって、ずっと思ってて。散々振り回して、わがままに付き合わせちゃったかもって。タッくんにとったら、いい迷惑だったよね」


「……それは」


美香のお陰で、俺は救われていた。


でも、素直に言うことはできない。


美香に対して冗談を言って場を濁そうとしたのに、喉から転がり落ちたのは、真摯な声音だった。


「美香が謝る必要はないよ。……むしろ、美香には感謝してる」


「え……」


「俺のために、今まで頑張ってくれたんだよな」


美香は、キョトンとしてから、楽しそうに笑い始めた。


「意外、タッくんでも感謝することなんてあるんだあ」


「どういう意味だよ」


「ふふ。なんでもなーい」


後ろ腰に手を当てて、美香は、笑顔で俺を振り返った。


「明日は、お昼から水族館に行かない? あたし、サメが見てみたいなあ!」


「サメかよ」


「そうだよ。でもそれって他の人の前じゃ言えないじゃん? 約束だよ!」

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