彼女らの異常性
いつものベッドで、まるで人間のように眠っているリリィを見る。この目が開いたら、また初めましてだ。
何度も少しずついろいろなところを砕いたリリィは最初よりずいぶんと小さくなってしまった。父にも、母にも、きっともう隠せないだろう。
補修の箇所を大きくすればするほど、彼女との剥離が出て、初期の状態にすら戻らなくなる。それだけは避けたいので、いつも最小限の補修だけで済ませているのだ。わたしが我慢できていないせいで、どんどんちいさくなる。補修の箇所が大きくなりすぎたせいで。
いつかはバレる。どうしようもないのだ。もう本来の彼女なんていないのに、リリィであるのは少しだけなのに、それでも彼女を求めるんだから。
「………サラ?」
目を開けたリリィがわたしを呼んだ。
蕩けるような声で呼ぶ、わたしはその声を知らない。これは―――、
「また食べたのね」
頭に電流が走るようだった。
×××
目が覚めたリリィはいつもより剥離が激しい上に、今までわたしが犯した罪を覚えていた。ああ!なんてことでしょう!
リリィはなぜか恍惚とした表情で、こちらを見ている。じぃっと、品定めをするように。こんな日が来るとは思っていなかった。まさか記憶が残っているなんて、そんなこと一度だって前例はない。砂糖少女は、記憶を保てないものであるはずだから。今までの研究においてだって、そんな前例はない。飼い殺しにして、一切補修をしなくても、一年しか記憶は保たれなくて、それ以上は持たない。補修をしなければ、一年記憶を保てる代わりに、肉体はボロボロになって崩れ去る。そのはずだ。逆に補修をすれば、数十年ほどは消えない。そのはずだろう。なんで。
「目はおいしかった?一番最初に食べた部位は覚えてる?ねえ、サラ」
そう、おそろしいことを聞いてくる。だって、その聞き方だとずっと前から覚えてるみたいじゃない。わたしがやったことすべて覚えてるみたいじゃない!
胃から何かがせり上がっているような気さえしている。ああ、ああ、どうしよう。リリィは、何も答えないわたしを見て笑う、知らない笑い方で。
「サラ、ぜんぶおぼえてるよ。あなたが言ったこともやったこともぜんぶ」
リリィは覚えているという。そんなのおかしいじゃないか。
今までのことは、なに?忘れたふりをしていたというの?たぶんきっと崩れ落ちていくのは怖いはずなのに、食べられても、痛みを与えられても、何もせずに?なんのためにこんなことを。
あふれ出してくる言葉を無意識にせき止めて、ただただ苦い顔でリリィを見つめるしかない。甘い香りが近づいてくる、あまいあまい砂糖菓子のにおい。
「食べたいなら食べていいよ。サラ、私のからだ、好きなんでしょう?」
差し出されたちいさな腕を、わたしは思い切り噛んだ。
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