憎い落ち武者

寿和

第1話

俺はこの部屋に3年位住んでいる。大学進学を機にこの部屋を借りた訳なんだが、まあ、何というかいわくつきの物件だったのかな。築35年のこのアパート、家賃は安めだったし、外観と不似合いな程のおしゃれなリフォームもされていた。事故物件とは言われなかったけど、言われなくても俺にはすぐわかった。部屋を見せてもらった時、5センチ程開いたクローゼットの隙間からのぞく女と目が合ったからだ。もともと俺はいわゆる「見えるタイプ」の人間で、物心ついた時にはもうそこらへんに色々なものが見えていた。それに憑いて来られる事も結構あったから、ちょっとくらいのことじゃもう驚かなくなっていた。「浴室もきれいですよ。浴槽はジェットバスもついていますから、どうぞ」不動産屋に声をかけられて浴室に向かった。確かに綺麗な浴室だ。「ふうん…」俺は浴槽を覗き込んだ。そして顔をあげた瞬間、浴室の鏡越しにさっきの女とまた目が合った。「!」俺は驚いて息を飲んだ。めちゃくちゃ可愛いかったのだ。俺の好きなアイドルグループのメンバーの1人に良く似ていた。「ここ、借ります」俺は即答した。その女は毎日部屋のどこかに現れた。これはもう、同棲だよ、同棲。3年間コンパも断り続け、できるだけ早くアパートに帰る生活が続いた。そんな時、俺は「ある城」に行くことになった。400年以上前に建てられたその城は、心霊スポットとしても有名で、正直いうと行きたくなかった。でも、単位がかかるとなれば行かねばならない。案の定、その城で俺は落ち武者を拾ってしまった。落ち武者といっても、特徴的な兜の飾りと若々しい派手な感じの鎧から、どうやら名のある武将のようだった。それが、この落ち武者、どうしても俺から離れようとしない。びったりくっついて、トイレにまで入ってくる始末。最終的に一緒に電車に乗って帰ってきたんだぜ、笑えるだろ。そしてついにアパートにまで憑いてきてしまったわけなんだが、もう俺は何だかへとへとに疲れてて、玄関を入ると同時に、ばたりとその場に倒れ込んだ。「ただいま。」テレビの後ろから恥ずかしそうにチラリと覗く彼女に声をかけて、俺は眠りに落ちた。

そして次の朝、誰も、いなくなっていた。

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憎い落ち武者 寿和 @nene091

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