太陽の欠片
@843Rd4M
第1章
高校生になって3度目の夏が来た。照りつける太陽を見ると幼なじみのことを思い出す。
あいつもこんな太陽だった、と。
「だーかーら、海行こうって言っとうやん!夏休みやで?海しかないやろ。」
学校からのいつもの帰り道。汗を拭きながら彼女は海について熱く語り始めた。
「…お前さぁ、それ毎年言ってるで。」
ため息混じりにそう返すと彼女はそうだっけ、と目を丸くした。
「とにかく、今年はどこか行ってる場合ちゃうねん。受験生やねんぞ。」
「せやけど毎日毎日、勉強してるわけちゃうやろ?1日くらいどっか行ってもええやん。」
彼女は鬱陶しそうに少し前を歩いて下を向いた。
「…行こうよ。」
こっちを振り返らずにそうポツリと呟く。聞こえないふりをして追い越して
「…お前、結局進路とかどーするん。どーせ面談ブッチしたんやろ。」
振り返ると目をそらした彼女は
「…アホらし。中3の分際で何が進路や。将来もクソもあるかいな。どうせみんな高校行きやろ。」
吐き捨てるようにそう言って僕の前を更に歩いた。
「…そら高校は出とかなあかんやろ!」
負けじと彼女の背中を追いかけると彼女は突然走り出した。
「そんなこと言うて高3なったらまた大学出とかな、とか言うんやろ!あーあ、つまらんわ!人生ってこんなつまらんねんな!」
道の真ん中を大声でつまらんつまらん、と叫びながら駆けていく奇行少女に笑いがこみあげてくる。
「アホ。お前が人生語んな。」
走って手を伸ばしてバシッと頭を叩くと
「もう!それやめてって言ってるやろ!」
と、夕方なのにまだまだ元気に返してくる。
「わかったわかった、俺の負けや。1日だけやからな。」
そう言うと、さっきまで雲に隠れていた太陽は、突然パッと世界中を眩しく照らした。
あぁ、この笑顔が大好きだな、としみじみ思う。
「太陽。その代わり、宿題終わらしてからやからな。」
きっと、こうしてこいつを眩しく見つめる日がずっと続くのだとなんの根拠もなく信じていた。
佐藤 太陽と初めて出逢ったのは幼稚園の入園式だったようだ。記憶はないが少し緊張気味にかしこまっている俺の隣に、どこか遠くを見つめている彼女の姿が写真にあった。小学生になり中学生になり目線の高さが変わり、話す内容、距離感、少しずつ変わっていった。それでも変わらず彼女は僕の隣にいた。佐藤太陽。男みたいな名前の男みたいな女だった。ガサツで下品で口は悪く幼稚園の頃からすぐ男子と喧嘩していた。でもお楽しみ会などの行事では率先してみんなを楽しませようと頑張っていた姿をよく覚えている。
「──それ懐かしいでしょ。」
おばさんに声をかけられハッと我に返った。
「…そうですね。」
あんまり覚えてないんですけど、と心で付け加えて写真を仏壇に戻す。
「なんでか分からんけどあの子その時えらい不機嫌でね、どこ見てんねん、ねぇ。」
おばさんは笑いながら写真に目を向けた。その、ねぇ、が誰に向けてなのか分からず黙って苦笑した。
「今日は来てくれてありがとうね。…今、高校生やっけ?」
「はい。高3になりました。」
「そう、…早いねぇ。」
おばさんは目を細めて俺を見つめた。あの子も生きていれば、と考えているのかすくすくと育っている俺を恨んでいる視線なのか分からないが寂しそうに受験やねぇ、と呟いた。
佐藤太陽が死んで3度目の夏がきた。俺はまたあいつの嫌いな受験生になった。
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