第4話



 月日が移り変わり、慣れない分野を研究する事になった桐谷は、これまでの人間向けの薬とは違い、植物向けの薬品を開発する事になった。


 それにより今まで室内研究が主だった桐谷達は、次第に秘密基地から出る様になって、外を歩く事が多くなっていた。


 その中で、基地メンバーの一人……茉莉がある重大な秘密を打ち明けた。


「あたしはねー、なんとすっごい魔法使いなのです」


 彼女は奇跡を起こす事の出来る魔法の使いてであり、魔法使いであるという。


 彼女はいつも玩具にしている桜の木で作ったその杖を振るう。


 証拠にと見せられた茉莉の魔法によって、荒れ地に緑が芽吹いた。


「茉莉、この力を研究すれば、きっともっと多くの人達を助ける薬を作れるかもしれない。協力してくれないだろうか」


 桐谷はこの世の常識では測れない出来事を目にする事になったが、その現象を拒絶することなく受け入れる事にした。

 

「うん、いいよー。未来も桐谷さんも研究頑張ってるし、円さんはお掃除とお料理ですっごく役に立ってるもん、あたしも何かしたかったんだー」


 そして、茉莉に協力を請えば、快い返事がもらえる。


 未来のおまけとして研究メンバーに加わる事になったのではないかと思っていたらしい茉莉は、今までその事をずっと気にしていたらしかった。

 その事に、桐谷は心を痛める。


 茉莉はいつでも四人の空気を明るくしてくれるムードメーカ的な存在だった。

 いつも笑顔を絶やさずに楽しげにしている彼女の存在が、どれだけ救いになっていたか。

 やはりアイスハートの桐谷では、そんな思いも伝えられる事が出来なかったのだ。


「気にさせてしまってすまない。茉莉はちゃんといつも私達の役に立っているよ」

「ほんと? えへへ、それなら良かったー」


 桐谷達は、その日から茉莉の魔法を元にして研究を進める事になった。






 だが、その研究は人が容易に手にしていいものではない力を生み出す事になってしまう。


 探求心と、研究心は、純粋な熱意と努力によってどこまでも突き進み続ける。

 いつしか桐谷達の行う研究は、本来の製薬の枠を超えていた。


 生物の想像の力を純粋なエネルギーへと変える、物質創造技術を手に入れた彼女達は、その技術を世界に公開。


 注目を浴びる事になるが、それと同時に数多くの力を欲する人間達に命を狙われる事になり、世界中で争いが巻き起こった。

 危険物が簡単に作れるようになったなら、あっという間に戦火の日は広まり始めてしまうのだった。


 桐谷は仲間達に頭を下げる事しか出来なかった。


「許してほしい。こんなはずではなかったんだ。私はここまで大変な事になるとは思っていなかった」

「桐谷さんのせいじゃないよー」

「そうよ。悪いのは、欲に目をくらんだ連中たちの方でしょう?」

「俺も、そう思います、だから先輩はそんな風に思いつめないでください」


 争いの火は消えない。どこまでも広がり続けた。

 そして、魔法で緑芽吹いたいつかの荒れ地は、戦火にのまれ、再び荒野へと戻ってしまっていた。


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