カラフルポップクレイジィランド
アリクイ
1:ハジマリハジマリ
『危ないから夜間の外出は控えなさい。』なんて学校の先生は言うけれど、不審者やヤンキーどころか人っ子ひとりも見当たらないこんな田舎のどこに危険があるのだろう?まばらな街灯と民家の窓から漏れる光に照らされた道をぶらぶらと歩きながら、わたしはそんなことを考えていた。
単純に生きていくことだけを考えるのなら、ここはとても良い場所なんだと思う。空気は澄んでいるし、食べ物も美味しい。それに近所の人達はわたしみたいなパッとしない人間にも優しく接してくれる。この町の中で適当な会社に就職してそこで知り合った人と結婚すれば、きっと周りの大人達のように平穏でそれなりに幸せな人生を過ごせるのだろう。
でも、わたしとってその選択肢はあまり魅力的なものではなかった。ううん、本当のことを言うとそういう人生も悪くないと思うけれど、今のわたしにはそれよりもずっと魅力的な夢がある。それは、東京にある専門学校を出てプロのイラストレーターになることだ。キラキラした都会の街と、その中で夢を叶えて、好きなことを仕事にしながら大きな成功を収める自分。高校三年生の夏を迎えた今、わたしはずっと思い描いていた理想像への一歩を踏み出そうとしていた。
しかし2ヶ月ほど前に自分の思いを両親に伝えたところ、強く反対されてしまった。父曰く、『お前のような子が都会に行っても悪い大人に騙されるだけだ。それに絵が描きたいならわざわざプロなんか目指さなくても良いだろう。』と。それ以降も何度か親を説得しようと試みたけれど、結局ふたりが首を縦に振ることはなかった。どうしても夢を追い求めたいわたしと、それを否定する両親。どちらも折れるつもりはなく、お互いの態度は話し合いを重ねる度に硬化していった。そして先程、ついに両親と大喧嘩になり、わたしは家を飛び出した。
「うぅ、暑い……」
勢いで家を出てみたけれど、こんな時間に開いている店なんてほとんどないし、クラスの中で浮き気味なわたしを家に泊めてくれるようなクラスメイトがいるとも思えない。昼間と比べれば格段にマシとはいえ真夏の屋外の暑さは想像以上に厳しく、気がつけば着ていたTシャツが汗でピッタリ背中に張り付いている。この状況をなんとかするために、わたしは歩いて10分くらいの所にあるコンビニへと向かうことにした。
……さっきまで歩いていた路地から移動して数分、コンビニまではあと半分といった所なんだけど、やっぱり周囲には清々しいほど誰もいない。歩行者はおろか、車も、野良猫すら見当たらず、本当にわたし以外の者やモノがそこには存在しなかった。そんな風景を見ていると、なんだか今だけはこの世界が自分だけのものになったような気さえしてくる。少しだけ気分が良くなったわたしは、鼻歌を歌いながら交差点の真ん中に躍り出た。まるでここが「わたしだけの世界」であることを誇示するかのように。
そして、その瞬間に悲劇は起きた。唐突に真夜中の静寂を破ったクラクションの音と男性の声。とっさにわたしが音の方向へ顔を向けると、大きなトラックがわたしの眼前に迫っていた。
「えっ」
反応する暇もなく、次の瞬間には大きな衝撃と共にわたしの身体が宙を舞っていた。
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