THE Tower

新しい終わり



耳を疑う報告が入ったのは

今日、日曜日の朝9時だった。


ジェーンさんと朝食をとった後、一人でリビングにいたときの事だ。



パーク復興の要として導入された最新の電子系統の装置によりライフラインが整い、水道、電気、ガスの三拍子+サンドスターがそろい踏みした。


その一環としてテレビ放送の電波を受信し始め、今までも放送していた仮面フレンズの最新作が放送することとなった。


『仮面フレンズ シノビ』


主人公はパンサーカメレオンのフレンズ。

師匠の『師花平シカダイラ様』の命令により仮面フレンズ シノビとなった彼女は、パーク復興の邪魔をして人々を襲う『世案林せるあんりん』と、同業者でありライバルの『雷王丸らいおうまる一族』の撃破をすべく、そして『極東ノ忍秘奥義シノビひおうぎ』を会得し守り抜くという二つの使命を負う。

 専用の装置、

 『トウカバンド』を用いて変身し、透明化、飛行、防御力上昇など様々な『忍秘奥義』を用いて敵を翻弄する。



ってしゃべりすぎた。

んまとにかくそれが今日からなので見ようと思っていたら、急に俺のスマホが鳴りだしたのだ。


ウチの研究者の一人、亜鳥あとり 風斗ふうとくんが、

『オスのフンボルトペンギンのフレンズと接触したのだが、火山に向かって居るようだった。ソレも大急ぎで』

と言う報告を入れてくれた。

彼はどこか探偵のような口ぶりで、風が妙に強い町中から連絡して来たと聞いている。


火山にグレープさんが…?

予定も無いのに行くはずが無いのだ、俺は彼を追い、火山へと向かうことにした。


「行くんですね?…いってらっしゃい。」


ジェーンさんが声をかけてきてくれた。

いつもの顔より少々暗い。

健気な物で、ニコニコと顔を精いっぱい作っているがどうやら辛そうである。


「ごめんなさいね?

 コレが仕事でもあるので。」


「…あの。」


泣きそうな声で俺の背中を呼ぶ。


「…根拠は無いんですが、私、凄く嫌な予感がするんです。なんだか背筋が寒いというかなんというか…。とにかく、無茶だけはしないようにして下さいね?」


「はい、判ってます。」


俺は彼女の唇に自分の唇を押し付け、

頭に手をおいた。

内ポケットの中の俺達二人の写真をそっとひと撫でして、微笑んで見せる。



家の扉を開けて、火山を見つめる。

…見たことあるいつもの火山が俺の目に飛び込んで来た、俺は少しだけ腕時計タイプツーを覗き、火山へと飛んだ。



____________________________




「ねぇ、コレって…」


「うん、きっとそういう事…だよ。」


コウちゃんの膝枕でごろごろしていた日曜日の朝、急に部屋の隅で強烈な光が発生した。


ソレは貰ってからずっと飾ってあった、四神スザクの尾羽である。

触るだけでほんのりと暖かく、心の邪が打ち払われる感覚に襲われる。

光が強くなったと言うことはつまり、火山にお呼ばれって事で、四神であるスザク様にご厄介にならねばならない日が来た。


「行ってきます。」


「いってらっしゃい、気を付けてな?」


コウちゃんの頭をポンポン、と叩き俺はほんのり笑って家を出た。

 財布とケータイ、愛しの妻の写真と尾羽を持って



____________________________




「遂に来たって事…?」


「そうね…私も行った方がいいかしら?」


今朝、目が覚めて二人でイチャついていたのだが、急に奥都さんが慌てて出ていった。

まさかと思い、寝室の枕元に束ねてしまってあった髭を取り出すと、ひんやりと冷たく、そして強く光輝いている。


来るべき時が来た。

ということだろうか。


僕は姫ちゃんのほっぺにキスをして、

強め強めに抱き締める。


「…いってらっしゃい、アコウ」


「いってきますっ!…大丈夫、そんな顔しないで?大丈夫だよ?」


「うん、大丈夫 よね。」


僕はかばんに丁寧に髭を束ねてしまい直す。

ケータイ、お財布、姫ちゃんと僕の一番最初に撮った写真をそれぞれ入れて、ちょっと深めの深呼吸をする。



…?

今日は流星群の日だったか?

空を平行に飛んでいく大きな赤い彗星を僕の目はしっかり捉えた。




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「すげぇ!こんな風に光るんだな!」


「驚いてる場合じゃないぞ…マジか、ホントに火山のご厄介にならねばならないって訳?ツライのだぁ!?」


事の重大さが理解出来た所で、アライさんのような口調になってしまった俺は、どうやら鱗を持って神の領域に足を踏み入れなければならないようである。


「いってらっ!気をつけてな。」


「そんな軽いもんじゃないっしょ?

 …でも変に考えるよりいっか!

 行ってきまーす!」



鞄に、サイフとスマホとその他もろもろを突っ込んで、最後に丁寧に彼女イワビー

写真を入れて、家を出た。




____________________________



「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」


鋭い疲労が僕の体を徐々に覆っていく。

顔にぶつかる春の強風が僕に逆境であることを知らせているようだ。


だが…

そんなことを言っている場合ではない。

島の長、博士助手の協力を求めたが鼻で笑われて返された。


「「そんなこと、あるわけ無いのです」」

「何処の伝承にも無いのです」

「そもそも外伝というとらえ方が可笑しいのです、わかったら帰ってくれなのです。我々はそんな黒い巨塔の話よりキムチ鍋の話が聞きたいのです。」


黒い巨塔…


この言葉が何を意味するか、

なんてわからない。


でも、なんとなく嫌な予感がする。


言葉にするなら…

「新しい終わり…」

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