嫉妬殺到高速サイレン鳴響止水万事窮す



「フンッ、せりゃッ!」パッカーン!


高速で空を切る剣。

方位磁針は彼の回りでは意味をなさない。

広場のタイルの間に挟まった砂鉄や、スチール缶が彼の構える剣の先端に集まり一つの鉄塊スクラップへと姿を変えていく。

先端に刺さった鉄塊のコアはセルリアン。

コアの中にも磁力を持つ塊が埋まっている。


染み出すようにして、怪物は爆ぜた。





「格好いい!凄いねお兄さん!」


襲われていた女性に声をかけられ、

照れくさそうに笑う。

見物人の中には襲われても無いのに助けられても無いのに、彼の脳に煩く焼き付いてもいない女性もちらほら。



そう、人気者なのである。



フンボルトペンギンことPPPのフルルという人気者の彼氏である彼もまた、

ハイブリッドみたく中性的な顔つき、クールな瞳、かわいいアホ毛、優しく熱い性格と主人公に必要なものをすべて持ち合わせた人生もといペン生の勝ち組である。

名前はそう…グレープだ。



そして彼から離れた所に一人人知れず大物を一気に3体さばいたのが、

何とか勝ち組に片足突っ込んだメガネ

研究者、装着者 シキ である。



自己紹介させて貰おう。

LBsystem type2 version0-SS

私はアンドロイドというかAIである。

研究者の腕時計生活を始めてもうしばらく立つが相変わらずコイツはマヌケ面である。

そのくせ戦闘時にはキリッとする。

まぁ、彼の瞳が大衆にみられることは無いだろう。敵と一対一を求む彼は人に背を向け戦う。助けられた人だけが彼の瞳に映る。


ただ、彼がそうやって好かれることは無い。


一つは彼女がいること。

もう一つは…


「よし…殲滅完了。人気者だね、彼は」


人がそもそも彼に寄ってこない。


「嫉妬ですか?」


いたずらにそんな事を聞いてみるが彼は気にもしないようだ。


「別に。俺は帰って顔見せなきゃいけない子がいるからね。」


あぁそうですか…

そう言って、私は電子時計のモニターを映し出して

「ご飯は何時でしょうね」

といっておいた。

「さあな。」

彼は吐き捨て、白衣をなびかせ歩み始めた。



____________________

_____________

_______



「ただいまー」


俺は玄関のドアを開け、靴を脱ぐ。

シキリアンをカラダから火山へとサンドスターロウの粒子として送る。

余談であるが、サンドスターロウをセルリウムと呼称すべきとの研究成果が上がった。

どうやら、他地方の研究所にてサンドスターロウと同一の成分をもつ物質をセルリウムと呼んでおり、フィルターによって発生するわけではないためサンドスターロウという呼び方はキョウシュウ限定となるそうだ。



とてとてとて…

可愛い足音が奥から聞こえてくる。


「おかえりなさい!」


足音の正体は俺の大事な人。

「ただいまジェーンさん」


俺達は抱擁を交わした。

ゆっくりと彼女の頭の後ろと背中へと手を伸ばした。サラサラと流れる髪からは、柔らかくシャンプーのにおいがした。

彼女は俺の肩に二の腕を置き、頭を優しく包み込んできた。

互いに何も言わず、しばらく続ける。

言わずともわかる。ジェーンさんの肩が次第にふるふると、ぴくっぴくんと揺れる。

彼女の腕の力が抜け、顔が俺の胸元まで下がってくる。


「えぐっ…ヒグッ…っズ」


「よしよし…」


極、極々稀であるが、彼女は時折このように泣いてしまう。

原因はその時によって変わるし、原因を知らないまま解決したこともあった。

だから、変な詮索をせず、ただ場所を貸している。

俺が不安や怒りなどでおかしくなるのと同じ。誰だって抑えられない感情があるのだ。


この時の彼女の顔は筆舌に尽くしがたい。

負の感情に押し潰されそうになりながら、俺に「おかえり」「ただいま」を言うまで言われるまで耐え忍んでいたわかりやすい作り笑いもだが…。なんというのだろう、包んであげたくなる、というのか。

なんとなく護ってあげたくなる。


「ふぐっ…オエッ…」


「おわわ大丈夫ですか…」


…大丈夫。

貴女には貴女にしか紡げない色がある。

俺は此を「カミヒトエの色」と呼んでいる。


「ごめんなさい…晩御飯も、お風呂も、お洗濯の整頓も、なにも終わって無いんです…」


「そんな深刻そうな顔しないで下さい、

 せっかくの可愛い顔が勿体ないですよ?」


「だって…体が熱っぽくて、でもシキ君帰って来るからって頑張ったのに、全部うまく出来なくてぇ…今日の練習も休み休みで…迷惑かけっぱなしだし、シキ君は今日も私の為に一生懸命に働いてくれているのに何も出来なくて!私なんか…やっぱり…そう思えて…

 ごめんなさい…私の都合一個で。」


「ジェーンさんが俺のこと、こんなに大事に思ってくれてるんだって、凄く感じます。

 たくさん泣いて、たくさん休んで、たくさんたくさん笑顔を見せてください?

 いつかジェーンさんいったでしょ?

 『一人で抱え込まないで』って。

 助けて欲しいときには、助けてって言って下さい。支えます。護ります。

 …へへ、変ですね。なんか。」


「…そんなに優しくされたら…

 私…わだしっ…」


「…よしよし。

 晩御飯、作りますよ?何がイイですか?」


「…シキクンガイイデス///」














ふーん、なるほどな?

























なんという事ださすが女優志望…

普段見せる涙と差の無い涙に声。

俺に妙なイケてるセリフを吐かせ演技で興味をそらし、新しくした玄関の芳香剤が既に出来上がった美味しそうなシチューの匂いをかき消しているという徹底ぶり。

可愛いなぁ貴女!そんなことまでして俺が欲しいのか!ホントにもう!大好き!寝かしてあげないぞ?困った子だね?


…ホントに大好きだ。

___________________








「グレープさんですよね!?あぁのえと、握手して下さい!」


「全然いいよ!写真も撮ろっか?」



ひえぇ昨日は疲れた。

昼過ぎ、鉄のベンチに座り昼食をとっていると、隣の人気者は握手を求められていた。

隣の人気者の格好は中々のおしゃれさんだ。


俺?俺はいつも通りさ。

眼鏡でぼさぼさの髪の毛、青緑色のシャツに赤いズボン、白衣を羽織って緑ラインの入った黒い靴をはく。

白衣は黒くくすんでいる。

そろそろ変えようかな?


「ね~シキ~」


後ろから唐突に声をかけられた。


「フルルさんかぁ…びっくりした。

 どうしました?」


「…じゃぱりスティックある?」


あぁ食いもんね、ほいほい。


「わーい…」


…終わりかい。



俺の優しさを分かってくれるのは、彼女ジェーンさん火山組シキリアンを除く、公園のハト。

ありがとう…ハト。






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