いざ、鬼ヶ島へ

@cooler

~決戦までの最後の5分間~

 ――鬼ヶ島


 自分がこれまで、村のみんなの笑顔を守るために、過言ではなく人生の全てをかけて目指して来た地がそこにあった。


 その圧倒的な存在感は、そこにあるだけで見るもの全てに畏れを抱かせ、二度と近付かせないのに十分なものだった。

 島に緑は一切なく、それ故の略奪行為かと少しだけ納得する自分に嫌気が差した。


 別に殺す必要はないのかもな――そう思いつつも、俺は先程から震えが止まらない。武者震いに決まっている。そう自分に言い聞かせ、恐怖を紛らわせるために仲間に話し掛ける。


「時に、お猿さん」

「ウキィ?」

「君は、本当に俺に着いてきて良かったのかい?鬼ヶ島が怖くないのかい?」

「ウキっ、ウキィ!」


 元気よく答えるお猿さんの両手にはきびだんごが握られていて、鬼ヶ島なんてまるで気にしていないようだった。


「ワンっ!」

「ケーン!」


 見れば、雉さんや犬さんもきびだんごを1つずつ咥えており、皆とても楽しそうだ。


「みんなぁ……って!」


 みんなの笑顔をに救われた気持ちになっていたのだが、ハッとして巾着の中身を確認すると、中には残しておいたはずの4つのきびだんごが無くなっていた。顔を上げれば既に3匹共モグモグしてる。


「……おい、お前らっ!」

「ウキィっ!」


 怒鳴りかけると同時に差し出されたお猿さんの手には、きびだんごが1つ乗せられていた。

 俺はホッとしてそれを受け取り、巾着にしまった。


「ウキっ?」

「あぁ、鬼を倒してから食べるんだ」

「ウキィ〜」


 お猿さんも納得してくれたようで何よりだ。勝った時のご褒美があるとモチベーションが上がるからね。あ、そうそう、勝った時のと言えば――。


「ワンワンっ!」


 犬さんが吠え、舟は鬼ヶ島に着岸した。

 みんなに怖気はなく、その清々しいまでに勇敢な様を見ていると、こっちも勇気が湧いてくる。みんな鬼ヶ島への最初の1歩は俺に譲ってくれるようだ。

 そして、俺は最初の1歩を――


「俺、鬼を倒して村に帰ったら、お梅ちゃんに結婚を申し込むつもりなんだ」


 盛大な死亡フラグと共に――


 ツルッ、バッシャーン!!


 ――踏み外した。






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