第2話

トラベラーAさん

 「どんな所、どんな場所にだってルールはあるものさ、勿論ルールを破る事だって可能だ。はらむ危険をど外視すればな」



三日前ー



惑星ガルンゼル、中央大陸の西側には砂漠が存在する。砂漠には人は住まない、しかし砂漠の近くには人が集まる場所がある。



オアシス、水があり砂漠横断の最後の補給地点バイアスという地方都市は賑わいを見せていた。人口は一万人以下でありながら、品物は豊富で寒い地方でしか実らない果物や珍しい装備品などが、露店などで所狭しと売られている。


バイアス中央には神殿があり、それを囲うように大きな店が連なり、神殿から離れるほど店舗は小さく、こじんまりしてくる。


小さな店【ランプの精】のドアの鈴がカラカラと音を立てた。髭面店主は今日三人目の客に愛想を振りまくため、いつもの営業スマイルをつくる。


「いらっしゃいませ」


店主は客の値踏みする。足元から頭頂までの服装、そして仕草や身体的な特徴をー


男は短髪黒髪茶色い瞳の黄色人種で年は十代後半から二十代前半、背は180位。顔はやや整っているが格好いいといわれる程ではなく、普通。奇妙な杖を持ち、アーマーを身に付け、隙のない仕草からかなりの手練れだと思われた。


「装備品をお求めですかな?実は最近物騒で護身用として、魔石の取り扱いも始めましてね。そちらが魔石、その奥が武器や防具が、、」


魔石とは無色透明の石で、魔術を使用する時に媒体となる石である。透明から白、白から黒となり、最後には砕け散る消耗品で、生活面では火起こしや明かり等々。熟練者になれば、火球を飛ばしたり、小さい雷を放てる様になる。


地方では金額や銀貨の代わりに取引される事もあり、物々交換や交渉ごとでよく使用される。


もっとも、そんな魔石は高価な事もあり、遠距離で戦うだけなら弓やボウガン、スリングショットの方が遥かに安上がりで効果的ではあるのだが。


「いや、ガントレットを探している。材質はコレと同じモノなんだが、、」


そう言って、杖を軽く掲げる。


「その杖は非常に珍しいモノですなぁ、長年店を開いていますが、その様な材質のモノは見たことがございません。その杖はどの様なモノで?」


「まさにそれだよ、自分も答えを探している最中でね。自身の出生に関係があるらしい。」


「他にはございませんので?」


男は少し考えると。


「あるにはあるが人には見せられないし、見たのならそれは自分が死んだ時だろうな、、」


と訳の分からない事を呟いた。首を傾げる店主に見切りを付け、立ち去ろうとする旅人に店主が記憶を頼りに呟いた。


「街の誰だったか、、見たこともない珍しいモノを手に入れたとか聞いたような、、ウーム、、」


男は溜め息を吐き出すと、懐に手を入れ数個小石サイズの魔石をテーブルに転がした。


「思い出しました。この先の【長靴と傘】その店主が言っていました。」


言うとサッっと魔石に手を伸ばす。ーが、店主の手首を掴みながら男は言った。


「コレはやる、、だがもう一つ魔石を出す。この店には食料品も有るだろ、それをウンと安く売ってくれよな、互いに納得出来る感じにな。」


男の目が殺気立っていたので流石の店主も、首を縦に振ったのだった。





「もうダメだ、金がない。このままじゃ買うとか譲ってもらう以前に路銀が尽きる、、全くなにが【街に行けば簡単に見つかる】だよ。ガセネタだったらただしゃおかねえぞ、あの守銭奴め」


アルドは先日会った魔術学校主席だという、胡散臭い魔術師の悪態をつく。


そして先程の店からただ同然で買った干し肉と果物三日分の一部を食べ終えると、アルド・ガーデンブルグはすぐさま歩みを【長靴と傘】という店に向けた。


その店は大きく、堂々とした佇まいから高級店を思わせた。客の身なりもかなりよく、本来ならばアルドが入りたいとも思わなかっただろう。


「よし。」


アルドは気合いを入れると【長靴と傘】に入って行く。店舗は二階建てでゆったりとした、店内にショーケースに入った物品が多数ある。装備品の専門店らしく、それ以外の品物は販売していなかった。


アルドが入店すると同時に、店員がアルドに挨拶をする。笑顔が張り付いているが目では、小汚いアルドを客とは見なしておらず、間違って入店した男として認識しているのはあきらかだった。


「いらっしゃいませ。【高級】装飾品店【長靴と傘】へ。お客様、ご予算はいかほどでしょうか?」


実際この店員は荒事専門の警備員であり、盗難や強盗店内で起こる様々な問題を処理するのが仕事である。必然的にアルドを外に出すという作業に入る。腕に覚えがあるのだろう、アルド前に立ちふさがり。前に進ませようともしない、普通の客であれば早々に退散したはずだ。普通の客であればー


アルドはそんな店員の脇を簡単にすり抜け店内の奥へと移動する。


脇をすり抜けられたのは技量の差か、店員が油断していたからか。店員は自分が油断した結果だと判断し、店内へ進んでしまったアルドを止めようと肩を掴もうとした。


スッ。


後ろに目があるのか、滑らかにアルドの身体が横に移動する。店員の手は何もない空間に振り下ろされ、店員が若干よろめきながら、体勢を立て直す。驚く店員を無視し、アルドは目的のガントレットを探す。


「何かお探しですかな?」


次に出てきた店員は、店長代理の人物である。先程のやりとりでアルドに対しては排除より、納得して帰ってもらう方法がベストと判断したのだ。


「ガントレットを探している。これと同じ材質のモノなんだが、、」


店長代理はアルドが掲げた奇妙な杖を一瞥する。


「それはそれは、確かに似ていますな。先日店主様が購入されたガントレットの材質にとてもよく似ております。」


アルド喜び半分冷静に店長代理の言葉を耳を傾ける。


「しかし、当店には現在ございません。店主様はそのガントレットの材質鑑定するために西の海洋都市国家ガーランへ出掛けられました。再度ご来店の際にご購入を検討されては?」


バイアスの西の砂漠、それを抜け細長い山脈を抜けると王都がある。本来なら海路の方が近道ではある。しかし安全を考えるのなら、今は陸路の山越こそが正規のルートだ。


海上ルートは高い船の輸送費に加え、海峡での海賊の発生頻度、季節特有の海上嵐。対して山越ルートは年間無謀なトラベラー数名が行方不明になった砂漠、キラースコーピオンによる家畜の被害程度である。


人がキラースコーピオンに襲われて死亡するケースは極めて稀で、基本自分達の縄張りから離れない為、地図には危険地帯や、分布図まである。つまりは道に迷った大馬鹿者以外は遭遇しないのである。


アルドは店長代理の目を見る。嘘かどうか、虚言は含まれていないか、、騙そうとしたのならアルドの視線を受けきる胆力は店長代理にはないだろう。しかし真実だからなのか、張り付いた笑顔を絶やさない所を見るとやはり真実なのだろう。


アルドは店長代理が言った先。王都へ行くことを決意した。

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