異次元収集家アルド

勝研

第1話

トラベラーAさん

 「頼み事を引き受ける時は注意した方がいい。引き受ける側は軽い気持ちでも、頼んだ方は非常にひっ迫している事があるのだからー」




 惑星ガルンゼル、中央大陸には小規模ながら砂漠が存在する。大陸中央の西側、周りに大きな川もなく、西海の風が西にある細長い山脈に当たることで湿った空気が遮断され、それが原因となり砂漠となっているのだ。


真夜中、一つの人影が砂漠を横断しようとしていた。小規模ながら砂漠であり、それなりの準備が必要である。しかし、その影は簡易毛布をマントのように羽織るだけで、奇妙な材質の杖でバランスを取りながら砂漠を進んでいく。杖は白銀色に輝き、周りは暗くとも薄暗い青白い光を杖から発していた。


先程述べたとおり、砂漠横断には準備が必要である。それは水、暑さ寒さに対する装備品、方角を見失わないための星読み知識、そして神への祈り、、すなわち運である。


しかし、その人影に運は無かったようである。


突然地面が隆起し、人影を巨大な真紅の蠍が襲った。地面に身を隠し、近付いてきた獲物を鋏によって捕獲、そして圧殺。動かずにいることでエネルギーの消費を極端に減らし、獲物を逃さないためキラースコーピオンの伝統芸である。


「?!」


キラースコーピオンの全長は4メートル、幅も巨大な鋏を入れれば三メートルはある。しかし人間の反応速度では気付いたときには遅く、人影の胴体はあっさりと右の鋏に持ち上げられ、万力のような力で締め上げられる。


人影は運は悪いが、悪運は強かった。マントのように羽織っていた毛布の内側には、しっかりとしたブレストアーマーを着込んでいたのだ。もしそれがなければ人間の体などは捕まれた瞬間に肋骨が粉砕していただろう。しかしながら、そのアーマーですらキラースコーピオンの鋏には抵抗できず、徐々に形を変えていく。


もう人影の命は助からないと思われた瞬間。


ピピッ。


『生体認証確認レーザーグレイブ起動』


杖のようなモノの先端から光があふれ、自由な両腕でそれが振るわれた。


キラースコーピオンの外骨格は非常に硬い、鉄よりも硬くまた軽い。そのため半端な武器では傷すらつけられない。巨大なバリスタや斧でようやく傷付く程度なのだ。戦いではつなぎ目を狙い持久戦になる。そんな外骨格を撫でるように、杖は両断した。


紫色の体液をまき散らしながら、右の鋏とともに人影は地面に落ちた。蠍はギチギチと口角を鳴らし、威嚇する。


「小金欲しさにガイドを雇わず、闇雲に進んだあげく道に迷う。分かってはいたんだよ迷うかな?ってさ、しかしガイド料の馬鹿高さ、ありゃないだろ完全に足が出る、、ああ二日分の恨み辛み、お前サンで晴らすとする。』


ムクリと起き上がり人影、男はもう発光していない奇妙な杖を正面に出して回転させながら独り言を呟く。



『すまない、でもよお前も俺を食べようとしたなら、文句はいえないよな。というか蠍相手になに言ってんだ、話し相手がいないからって、やめやめ。腹も減ったし蠍の肉料理で精でも付けますか。』


言うが早いか、両者が接近する。キラースコーピオンは残った左の鋏を閉じたまま、男に打ち落とす。



男は腰を据える、再度杖に光が灯り、杖を振り上げる。そのまま舞うように杖の方向を変化させ、次の瞬間には杖を切り返す。


普通の人間が見れば、いまだ戦いは続いていると思うだろう。しかし、そこには明確な勝者と敗者が存在していた。


男、アルド・ガーデンブルグは蠍の死体を見下ろしながら一人考える。なにが悪かったのかと。

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