赤か黒か

花るんるん

第1話

 「さあ、カードを引け」と男は言い、トランプを差し出した。「赤なら不老不死と無限の富を、黒なら死を与えよう」

 「いや、いいッす」と僕は言った。「景品に興味ないから、引くのいいッす」

 「お前が引かなきゃ、話になんねェんだよ」

 「……しょうがないなあ。じゃあ、一つだけありますよ」

 「何?」

 「『僕にカードを引かせる方法』、一つだけありますよ」

 「本人が言うか?」

 「先ずあなたがカードを引いてください。同じ条件で」

 「人間の分際で調子に乗るなよ」

 「おやっ。人には勧めておいて、自分は怖いんですか? しょうがない、しょうがない。よくあることです」

 「俺には不老不死と無限の富なんか意味はないし、俺が死んだら、お前を含めて、世界が終わる。言ってること、分かってんのか」

 「御託はいいから、『命賭ける気があるのか、ないのか』ッつてんだよっ。それとも、何か。超常的な力を持っているあなたもしょせん、『他人にだけ自分のできないことを強要する、その辺の腐った大人』と一緒ってこと? それはそれでいいですよ。安心すらします」

 「カードを用意しろ」と男は言った。「どうなっても知らんからな。この会話の時間が人類最後の五分となったとしても、お前のせいだからな。あと、勘違いしているようだから言っておくが、俺はかつて『道(タオ)』とも呼ばれていて、『あるがままに』で十分なんだよ。消滅することにこだわりはない」

 「いいから、さっさと引け」

 男はカード引いた。何の力も使わずに、人間と同じように純粋に運に頼った。

 「これで宇宙が無くなるのも一興かな」と思いつつ。

 「カードを見せろ」

 その言葉尻には、運命に翻弄され続けた人類のイライラ感が端的に、にじみ出ていた。

 はたしてカードは……、ジョーカーだった。

 子ども向けのトランプらしく、バイキンマンのような顔の描かれた、ファンシーな道化師。

 「もう一度、引け」

 「合意もなしにそういうことを強要するのは少々ルール違反じゃないか」と男は思った。「ジョーカーが紛れ込んでいたのは、神に誓って、自分のせいじゃない」し。

 それでも男は、運命に翻弄され続けた人類の哀れさに同情して、カードを引いた。

 「どうでもいい」と思いながら。

 はたして次のカードは……、やはりジョーカーだった。

 そして、その次のカードも、やっぱりジョーカーだった。

 僕はジョーカーをひどい形相で睨みつけ、「悪魔めッ」と叫んだ。

 男はにこやかに笑った。

 「さあ、次はお前の番だ」

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赤か黒か 花るんるん @hiroP

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