第15話 「動的」な練習

鍵盤道本堂会長

盤道 百太郎


その漢、表向きには「武道家」としての知名度が最も一般的であった。

しかし、ある時一人の男と運命的な出会いを果たし、キーボードの魅力に惹き込まれた。やがて百太郎は「鍵盤道」という新しい道を自ら築き上げた。

もちろん、これは一種のスタイルとしての呼び名であり、「鍵盤道」というスポーツでもなく、競技というわけでもない。彼が「目指す道」にたいして、つけた名前にすぎない。


さてさて、そんな前置きで、話は鍵盤道本堂にきたメザス達のシーンに戻る事にする。



「盤道さん、この子がメザス君ですよ」


「おぉ!君がメザス君か!君の父上には大変お世話になったよ。良きライバルであり、良き友でもあった!…と私は自分勝手に思っているよ!!」


ガッハッハ!と大声で盤道さんは言った。


「君の父さん、そう芸夢は本当に容赦なかった。もちろん私もイチ武道家としての強さはあると思っていたんだがね!まだまだ背中の傷が疼くときが」


と言うところで、アリエが盤道さんの背中を小突いた。



おっとっと、と言わんばかりの表情が武道家の顔に浮かんだ。……父さんはどういう意味で「強かった」んだろうか。


「…ふははは!すみませんね!前置きが長くなりまして!まぁなんといいますか!繰り返すようですが、君たちのような若人が、キーボードに興味を抱いてくれるのは大変嬉しいことです!今日は存分に鍛えていってください!」


そう言い残すと、盤道さんはさっき来た道を引き返していった。


「盤道さんは相変わらずだなぁ…。まぁこれから結構お世話になると思うよ。さてさて、今日の練習相手がいる階は… 3階のトレーニングルームね」


ここに来るまでの道中、車内でアリエは、今日の練習について色々と話してくれた。

これまでの特訓はあくまでも「静的」な基礎練習である。そして「動的」な練習は広い場所かつ、専用の設備が揃っている場所じゃないとできない、ということで。


ようは、指だけではなく身体を動かす事も競技の重要な要素ということだった。


「体力作り」のという名目で走り込みもやらされたけど実際何がどうなのかっていうのは細かく聞いてなかった。おかげで体育の授業は中学の頃よりは苦じゃないかも。


そんな事を思いながら3階まで上がり、目的の部屋の前にたどり着いた。


部屋の扉の上には「競技C教練場1」と書かれた看板がはまっていた。


そして扉の横には、「利用者」と書かれた縦長のホワイトボードがかけてあった。たまに旅館とかにかけてあるような「なんとか御一行」とか書かれてるようなあんな感じのやつだ。


そこには複数の記入枠があり、既にこう書かれていた。


「オービタル商事」


商事?会社の名前??最近、理解に苦しむことが多いけど、今日も相変わらずといったところだ。


「今日の練習してくれる相手はねぇ、会社の部活でキーボード競技してる人たちらしいのよね。トーシロー相手でも全然いいって言ってくれた人達だから感謝しないとねっ」


そう言うとアリエは、扉を開いた。


「動的」な練習とは??と疑問に思っていたわけだけど、想像以上な場所がそこには存在していた。


よくある体育館の床材が使われているのは変わらない。


変わらないんだけど、いわゆる平地ではない。


坂や穴、壁等、様々な「障害」が立体的に構築してある大きな部屋があった。


最初は、その部屋の構造に圧巻されていて気づかなかったが、よく見ると部屋の中心、高い丘になっている場所に3人の女性が立っている事に気付いた。


さらによく見ると、みんな「決めポーズ」みたいなのを決めている。


おばちゃん風の人(というかおばちゃんである)、メガネをかけた寡黙なOL風の人、その中では一番若そうで恥ずかしそうに顔を紅潮させている人。


癖強すぎない?


僕は素直にそう思った。






立体的障害がある部屋:スケートボードのパークに近い構造になった部屋。明らかな立体的、地形的障害を持たせるという意味では、パークとは異なる設計になっている所も多いけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る