宴の前日・上

 公害を受けた母体により、生まれてくる子供が先天的な精神疾患を負って生まれることがある。

 多くは生まれた際に脳の一部が極度に小さかったりなどして引き起こされ、例えば極度に我慢の効かない子であったり、人の感情がまったく理解できないなどという赤子が生まれるなど。

 公害の種類によってかかりやすい先天性疾患が異なり、特定の物質が採掘される鉱山が近くにある場合のみ見られる症状なども確認されている。

 一部の精神疾患は幼少期には気付きにくいが、ある程度成長した頃になって判明することも多く、同時に判別が非常に難しいことも多い。


(中略)


――これは著しい問題であり、今後生まれる子供の為にも対策が必要なことであろう。現在の技術を我らのものとして改造・改良していかなければ将来世界的に大きな問題となることは明白である――


    『公害と先天性疾患の関連性及び、対策と規制の提唱』から抜粋


********


学園祭二日目。本日の予定はゼルレイシエルとアリサの二人が出場するクイズ大会と、レオンと一緒に何故かマオウも出場するカラオケ大会である。


『はい次の問題! てーてん! お寿司と言えば! 大和が発祥の地ですが~! ラグビーはどこが発祥の競技で(ピンポーン)ハイ、ゼルレイシエルさん!』

「あの……さっきから思うのだけれど……問題に脈絡がなさすぎないかしら……北西大陸オリュンポスのマビノギオン地方」

『ハーイ! またまた正か~い! ゼルレイシエルさん&アリサさんチーム、強い! 破竹の勢いでポイントを溜めていき、残り二ポイント。つまりもう一問正解すれば優勝となります!』


 ゼルレイシエルのツッコミには反応しないスタンスのようである司会者、もとい体育祭で実況を担当していた人物。散々な目にあった体育祭を経て何か吹っ切れたのか、何かに振り回されることなくキレのある司会進行をしている。


『しかし我が校の研究員チーム、司書さんチームなどが追いかけます! さぁ栄光は誰の手に!』

「ゼル姉ファイト―! あと一問だよー!!」

「うぅむ……ぜんぜんわからん……」


 リリアが声援を送り、その隣で問題が解けないと唸り続けるシャルロッテ。花の騎士達が何かしらの競技に参加している仲間を応援するいつもの光景だが、レオンとマオウ、それにマロンやレイラの姿が見当たらない。

 アルマスは観客席の端の方でケバブらしき物体を食んでおり、ミイネはその隣で木の棒……薪のような太さの物体をガジガジと噛み砕くように咀嚼しつつアリサ達の活躍を見ていた。リリア達は最前列近くで応援していることもあり、流石にそんな場所で何か食べるわけにもいかないと後ろの方に居るのである。


『さて次の問題! てーてん! 【星屑の降る丘】で猛威を振るっていた機壊達ですが、最近花の騎士によって倒されたと言う噂がございます!』

「ゲホッ」


 花の騎士という単語を聞いて思わずむせかえるアルマス。思ってもみないタイミングで話が飛び出したため、どうしても驚くものだ。

 ゼルレイシエルとリリアも、花の騎士という単語に合わせて肩をピクリと動かしたが、問題を回答者達より早く解いてみようと他の観客達は耳を澄ませて集中しているためか、彼らの反応に気付いていない様子であった。問題に耳を澄ませつつも目で彼らを観察していた、篠生しのう萌華ほうか――蒼尾月狐そうびげっこを除いて。


『そんな花の騎士に加護を与える天の花々、その中で水氷花は……二番目に咲きましたが、八番目に咲いた花は何を我々に与えたでしょうか!(ピンポン)はい、またもやゼルレイシエルさんとアリサさんのチーム! ボタンを押したのはまたもやアリサさん、恐るべき反射神経です! では、答えをどーぞ!』

「……ふぅ……」


 どうしても口から漏れそうになる全力のツッコミを抑えつつ(旅の中でアリサやマオウ等のボケポジションな連中と付きあう中で、不本意ながらもツッコミのスキルがあがっているため、反射的にツッコミを入れてしまう癖が付きつつあるのだ)、何度も呼んだ創世記の一文を語る。


「“八番目に黄色の種の花が咲いた。”……つまり、閃雷花が。“その花は雷を落とし動物達に花々への畏怖と尊敬を与えた。”」

『……ハイ! 大正か~い!! つまり、優勝はぁぁ! ゼルレイシエルさんとアリサさんチーム!!』


 タッタララ~というお馴染みの音楽が流れつつ、回答者席の頭上にあったくす玉が割れて大量の紙ふぶきが舞い落ちる。観客席から祝福の声や歓声があがり、それに答えるようにゼルレイシエルやアリサがはにかんで手を観客席に振ると、さらにワッと観客席が湧く。ぶっちゃけ怪しい噂の絶えない九人組の中の二人なのだが。


『見事優勝なさいましたゼルレイシエルさんとアリサさんに優勝インタビューを! いやーお見事でした! アリサさんもですがゼルレイシエルさん! すごい知識量ですねぇ! 正解の傾向としては特に歴史系問題が正解数が多いようです。歴女ってやつでしょうか……!」


盛りあがりを優先すれば関係ないことであった。


『見事優勝なさいましたゼルレイシエルさんとアリサさんに優勝インタビューを! いやーお見事でした! アリサさんもですがゼルレイシエルさん!」

「は、はい」

「すごい知識量ですねぇ! 正解の傾向としては特に歴史系問題が正解数が多いようです。歴女ってやつでしょうか……!」


 と、手元のタブレットPCを見ながら司会者。


「そうですね……昔から歴史が好きでそういった本はよく読んでいました」

「やはり本だろう! 見たかPC部! ネットサーフィンなんぞより読書の方が知識を得る手段として優れていると証明されたようだなぁ!」

「あら……なにも本だけが知識を得る手段では無いわよ? 情報の確実性という点では劣るかもしれないけれど……速度や検索のしやすさという点では遥かに優れているし……知識を得るためのきっかけとして他の媒体よりも影響は大きいんじゃないかしら?」


 「あくまでも私の考えだけれど」などと付け加えて保険をかけつつのゼルレイシエルの反論。「むむむ」と、PC部と図書委員のチームの両方を唸らせていると、いつの間にか司会者のマイクはアリサの方へと向けられていた。

 文化祭の実行委員会からの巻きでという支持の為である。クイズ大会は学校内で最も大きな体育館で行われているが、大会終了後の二時間程度で次の歌唱大会のステージセットを配置しなければならないのだ。何を血迷ったのか年末の歌唱番組を彷彿とさせるようなかなり本格的なセットであるため、少しの時間の遅れが致命的なのである。

 ゼルレイシエルへの質問が中途半端な状況であるが、司会者も放送委員会というだけの素人のようなもの。いくらかの進行のミスのようなものは仕方がないと言えよう。


『アリサさんもかなりの反射神経でしたね~! 正解した問題の中で速押し一位になった回数が一番ですよ! 雑学系の問題の正解率も高いですし、素晴らしい結果です!』

「やぁやぁそれほどでも! なんつって、まぁ俺はインターネットなんかで気になった事をすぐに調べるようにとかしてますかねー」

『あ、聞いてないから大丈夫ですよ~!』

「ひでぇ!」


 あまりよく知らない人からも散々な扱いを受けるアリサ。巻きだから仕方ないのだ。

 その後いくつかの質問を返すと、優勝者したアリサ達以外……要するに他のチームへのインタビューの時間へと入った。


「なんだかなぁ……」

「お疲れ様。あとはゆっくり楽しみましょうよ」

「ん……そうだなぁ……この後も明日もイベント目白押しだし……」


 アリサは集中していて生じた疲れを除くために、和服の袖をはためかせてググッと伸びをする。たったそれだけの動作でも何人かの女性がそれを見てキャッなどと反応するのから、美形というのは得なものである。

 見方によれば顔目当ての異性が寄って来やすい。という欠点とも言えるが。


「肩こりも酷いし……どうしようもねぇ」

「肩こり? どうしたの」

「ついこの間までほぼ徹夜でアプリ開発コンテストだかの作品作っててさ。ずっとパソコンに向かってたもんだから、肩にもダメージが行ってさー……」


 寝る前に蒸しタオルを目に当てるなどの処置をしていたのか、目の下にクマこそ出来ていないようだが、クイズが終わって気が抜けたようで大欠伸をしていた。そんな様子を見て「もう……」と溜息をつきながらゼルレイシエルはアリサの背中を軽く叩く。


「無理ばっかりしちゃ駄目よ? 後で肩揉んであげるから……」

「ありがてぇ。あいつらその辺気が利かねぇからなぁ」

「みんなも忙しいんでしょう。レオンなんかは昨日も今日も参加するイベントがあったわけだし……」


 などとゼルレイシエル達が話していると、ふいに何かを察知したように辺りを見る。


『仲睦まじいですねぇ……そういう関係なんです?』


 澄ました顔でマイクをゼルレイシエル達に向ける司会者。とはいえ声はニヤけており、状況を楽しんでいるのだとすぐに察知出来た。見れば最前列に居る

 アリサは「そういう関係ってどんな関係だ?」という風にキョトン顔を披露したが、ゼルレイシエルは顔を真っ赤にすると


「別にアリサとは、と、友達なだけだから!!」


などと言いつつ、力任せに隣に立っているアリサを突き飛ばす。そんなわかりやすい反応を残すのであった。

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