vs.アウグセム&エウグレム・上
首塚が破壊された日の午後。シエロは防衛分隊長という役職の者たちを自身の屋敷に集め、緊急の会議を開いていた。村長兼戦士団長という肩書きを持つという彼女の夫は、とある会合に呼ばれたとのことで数名の護衛を連れて【最果ての楽園】地方へと向かっており、代わりに村長代理としてシエロがまとめ役とした行動しているのだ。
「お姉ちゃん凄いにゃ!」「次は私!」「おいらも!」
「はいはい、わかったから危ないから離れてね~」
両腕に小さな子供たちを一人ずつぶら下がらせ、ぐるんぐるんと回転するリリア。巨人族の筋力のためか子供一人分程度ならばたいして苦にならない様で、近くに集まってくる子ども達に注意するほどに余裕があった。
「……そんなヨシノ姫は、大好きな王子のもとへと出かけて行きました。「王子はこのお菓子、喜んでくれるかしら。」お供の兎さんとスキップぴょんぴょん♪ ……楽しそうに歩くヨシノ姫を森の悪い熊さんが見かけました」
大きな家の軒下に集まり、リリアが相手をしている子供よりも少しばかり年下な子どもに囲まれつつ、自身の持つ本の中で絵本を取り出して読み聞かせをしているのはゼルレイシエル。行く先々の村で慣れないながらも様々な仕事をしているうちに、子守の内容として自身に適していると、バイトの鬼ことリリアに指摘されたものであった。
現在八人いる彼らの中でも、お世辞にも運動神経や体力があるとは言えなかった。その分子供の頃から読んできた本の数は相当な数となっており、その知識はマオウの医学・薬学やアルマスの動植物の知識などの特化したものには劣るものの、決して無下には出来ないほどの物となっていた。本の中でも伝記や時代小説なども好んで読んだため、物語の登場人物に感情移入するのが上手く、感受性の豊かな子ども達はその読み聞かせに夢中になっていた。
「うにゃにゃにゃにゃ!!」
「あははは! こっちこっち!」
「な、なんで俺らより速いの!?」
リリアやマロン達よりも少し年齢が低い子供たちと遊んでいるのはシャルロッテ。あと幾月か経てば二十歳になる年齢でありながら、容姿といい、性格といい全く大人の女性の片鱗を感じさせない彼女は、年下の子供達相手に無双していた。北東大陸【ウィザードウィルダーネス】発祥のスポーツである、バスケットボールという球技である。
平均的に見ても他の種族より球技が上手い猫人族や人猫族――種族的特徴としてついついボールにじゃれついてしまう為、しっかりとしたスポーツをするには適さないが――を差し置いて、守備を何人も抜いて単独でゴールへと向かい、ダンクシュートというものを決めるシャルロッテ。大人げなくはあるものの、子ども達は悔しがって何度目か解らない挑戦をした。
「……これとかも薬草……というか医療に使える草だな、使い方は一風変わっちゃいるが。こいつは熱湯でサッと湯がいて冷水で冷ましたあと、湿布の代用として使うことも出来る。まぁ相当摘まないと意味ないがな」
「ふむふむ……これはどうでしょう? 最近、村で良く生えてる草なのですが」
「それは毒草ですよ。環境によっては麻痺性の毒を持ってたり」
「あー……クロバリ草だっけか。たしか……」
村の若者から老人まで、数人の男女と話をしているのはマオウとアルマス。彼らの持つ薬学や薬草などの知識を、村の医療施設で働く者達に教えることで金を得ていた。外部の村からも空輸などによって薬などと仕入れられるものの、緊急時に対応できない可能性もあるためお金と知識・安全を交換しているのだ。
「おばあちゃんもがんばりますね~」
「いんやいんや、こーしでキヨマロちゃんみでぇな子に応援しで貰えるだげでも、おらは嬉しいだぁー」
「ごめんなさい、農作業とかあんまりやったこと無くて……あと、おばあちゃん。私はキヨマロじゃなくてマロンですよ。誰ですかキヨマロさんって」
「まぁしかたねぇべよ。猫の功より猫又の功って言うべ? 下手くそで逆に邪魔だどしても、畑の状態を良くしてけだだけでもおらは嬉しいだぁ」
「あうぅ……ごめんなさい……というか本当に猫の功より猫又の功ってあるんですか……!? このまえから聞いてるんですけど」
「あぅあ……お腹減っだなぇ?」
「ついさっき食べたばっかりじゃないですか!」
「んだっけぇ?」
村の中でも十数名程度しかいない希少種族である、猫又族の老婆が木陰で休憩している横で木陰に座っているのはマロン。片手を畑に埋め込み、わしゃわしゃと手を動かす。
畑の上には堆肥が撒かれており、その下にある畑の土がマロンの手の動きに合わせてゆっくりと波打つように動き、堆肥を巻き込んでなおも動き続ける。大地花の力を使った業(わざ)である。そんな非日常的な光景が数分続いた後、老婆が土の様子を確かめようと畑の土を触り、しばらくしてマロンの方へと振り向いてにこにこと笑った。
「この料理を美味くするんだったら……こういう調味料が最適。隠し味としてちょっと入れれば良いアクセントになると思う」
「えぇー? 本当ですかぁ?」
「……じゃあ、これかけて……はい」
「えっ!? な、なんで!?」
「料理は足し算ですよ。なんなら……ガルゴリーフと醤油、それにレモン汁をちょっと入れれば……はい、どうぞ。またたび酒に合う味になってると思う」
「……本当……! お酒が欲しくなる味だわ。不思議」
瞬火の村のとある定食屋では、レオンが村の奥様方相手に料理教室のようなものを開いていた。料理教室、というより料理のアレンジ方法などを教えているようである。開いた最初の頃は彼の子供にしか見えない見た目から、冷やかしのような同情のような人ばかりだったのだが、その腕を認めた主婦達がいつの間にか多く集まってくるようになった。
そんな花の騎士達の仕事風景は、とある猫人族の男の大声によってたちまち変貌してしまう。
「姐さんの言うとおり、ヤバい量の機壊が来たにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
総員臨戦態勢である。
◆◇◆◇
「なんつー数だよ……」
「鳥人の村の時よりは少ないっぽいけどな……」
思わず呆れたような驚いたような声を出すレオン。そしてそれに同調するようにしてアリサが言った。
目の前に広がるのは、機壊達の大群。いかなる戦士でも単騎で特攻すれば、すぐさま屍と化すであろうほどの、大軍勢であった。
「ここから見える機種は……近接攻撃のみの奴だけかな。やっぱ一個製造工場潰したから、資源温存か何かのために銃撃はしなくなってるっぽいな」
「あぁ。だからなのかぁ……ここ最近襲ってくるのに、居なかったもんねぇ……」
「まぁそもそもの数が少ないけどな」
何気なく会話をするリリアとアリサ。そんな二人の近くに立ち、自身の得物の状態を確認したりしている花の騎士たち。どこか余裕を垣間見せる彼らの様子に、その背後に集まっている瞬火の村の戦士達は、なんとなく感じるいつもとは違う緊張感を和らげさせていた。
「あんたら。随分と余裕しゃくしゃくだねぇ……私達は怖いってのに」
「まぁこの村の人達みたいに、あの伝説に恐怖心があるわけじゃ無いですから。まぁもしそいつらが来たら俺達に任せてくださいよ」
「こっの……!! アリサ兄の一級フラグ建築士このやろぉぉぉぉぉ!!」
容赦のない強烈なリリアのチョップが、アリサの脳天をとらえる。迫り来るその必殺の攻撃を、すんでのところでアリサは避けた。
「な、なんだよ!」
「鈍感も良いけど、それはゼル姉とだけ「な、なんでそこで私の名前が出てくるのよリリアったら」まぁとりあえず、誰かに一度殴られてもらおうよ」
傍から入るゼルレイシエルの反論をサラッとスルーするリリア。そんなリリアの反応に顔を真っ赤にしながら俯くゼルレイシエル。なんとも言えないその緊張感の無さに、村の戦士達もリラックスすることが出来た。幸いにもまだ機壊達からも距離があるため、そんな余裕も持てたのだ。
なお、彼女の恋路は前途多難である。
「え、いやよくわからな、へぶぅっ!?」
「……そういやアリサ。お前のパソコンはどうした?」
「いっテぇ………なんかここ最近調子が悪くてなぁ……情報量が多すぎるのかもと思って、この村の機工技師に見てもらってるとこなんだけど」
涼しい顔をして頭を叩いてきたレオンを恨みがましく見つつ、叩かれた場所をさすりながらマオウの質問に答えるアリサ。
「あぁ、さっき見かけないと思ってたらそういうことだったのかー」
「どうしてお前はそんなに間が悪いんだ……」
言葉のニュアンスがまったく違うシャルロッテとマオウ。そんな彼らのやりとりを耳にしつつ、マロンが警告の意味を込めて言う。
「そろそろ来ます!」
「了解……って、なんだか嫌な予感がしない……?」
「火薬……?」
戦士の勘とも言うべきか迫り来る機壊達から視線を外し、辺りを窺うゼルレイシエルとマロンを除いた六人とシエロ。遠くの別の見張り台から、警告の笛が鳴った。
そして、アリサの耳がとある音を捉えた。それは人工的で無くば、決して出ない音。
それが対機壊の群れの切り札として使われたことがあるのを、アリサは小さい頃に見たことがあった。発射時の轟音で周囲のエルフ達が軒並み麻痺して動けなくなったため、たったの一度使っただけで持ってきた商人に返品したのだが。
音の方へと振り返る。そして、うなりを上げながら迫ってくるそれを見て戦慄した。
「なんであいつらがロケットランチャーなんて撃って来るんだよ!!」
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