第3話 ワン・フェス・パーティー

 同教室内は長机を正面に平行して、縦2列。横4列で並べ1つのスチール長机に4台のパソコンが並べられていた。


 大学の講堂には程遠いが、生徒達は自由な席に座り、モニター内の線で描かれたオブジェと格闘する。


 教室内はモニターやプロジェクターを見やすくする為、蛍光灯を消し暗がりを作ると、正面のプロジェクターに写し出されたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画 


                『最後の晩餐』

 

 四隅から線が引かれ大胆にも、中心でバッテンを作り、その交差さた中心に真横の線が端から端に引かれていた。


 プロジェクターの画像を映すスクリーンの前に立つ、金髪アロハシャツのサングラスで必死に若作りをしている講師が、独特の言い回しと身振り手振りで伝えようとしている。



 DJ気取りの講師は軽いラップ調で話を進める。


「ヨウ! 俺様が懇切丁寧に説明するから、よく聞きやがれ。今から話すことは映画、アニメ、ゲームには必ずある手法だ。これは紀元前5世紀からあるヤツだ。ソウ! 遠近法。"パースペクティブ"。縮めて"パース"と呼べ」


 クロトは講師を、じっと見つめて思う。


 何で専門学校の講師って、一風変わった人が多いだろう?


 呆れ顔のクロトが暗がりで見えないのをいいことに、講師による授業という名のフェスは絶頂に達する。


「見やがれ。この真横の線。これがアイレベル。つまり人間の目線であり基本。アメリカならアイと名乗るのが見本。でも人間には愛が必要!」


 画面が切り替わると、正方形のオブジェが出て、中心に真横の線が串刺しにされている。


「イカを数える時は1杯、2杯。神は1柱、2柱。ならパースはなんだ? ソウ! 一点、二点の二点透視!」


 向きが代わり、隠れていた面が現れ2面の立方体となる。そこに両脇から光を当てるように線が伸び、立方体の角を捕えた。


「ヘイ! 3得点はハットトリック。ハワイに行くなら2泊3日。パースで言うなら三点透視!」


 再び立方体が動くと、上の面が現れ3面になる。

 それに合わせて線が増え、上と下から伸びる線が立方体の角を捕え、立方体はいくつもの線に雁字搦めにされる。


「街の背景は、パースだらけで蜘蛛の巣みたいなカオス。だが空とか宇宙でフライする場面だとパースに縛られない。すなわちフリーダム!」


 たまたま、プロジェクターは大きな羽を広げた大天使を映し、講師の背に羽が生えたように見える。


 講師は両手を天に仰ぎ、神に最大限の礼を述べるように続ける。


「パースはありとあらゆる物。生きとし生ける者、全てに宿る《はいる》。つまりこれ、真理。英語でいうとヴェリティ。"パースペクティブ・ヴェリティ"。この真理を見つけたパイオニアにマジ、カ・ン・シャ」


 講師が両手を合せ、お辞儀をしたところでチャイムが鳴り、この日の授業は終わった。


 講師が蛍光灯を点けると、生徒達は餌をばらまかれ、喜びで騒ぐ動物園の猿のように話を始める。


 待ちわびたと言わんばかりに、小太りオカメ顔の友人、城門寺じょうもんじ原人げんとが話かけて来た。


「なぁ、クロト? 来週ゲームのイベントあるんだけど、行かね?」


 クロトはせっかくの原人の誘いを申し訳なさそうに断る。


「あ、ごめん。来週予定があって行けない。また別の機会に」


 専門学校は昼で終わり、生徒達は建物で課題をやる者、バイトの為、いそいそと荷物をまとめる者とで別れた。


 クロトもバイトがあり、早々と専門学校を後にすると、後ろ髪を引かれる思いだった。


 イベントと行きたかったなぁ……でも来週は"命日"だから会いに行きたいしなぁ……。

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