第2話 今日も日本は快晴です

 照りつける陽の光がアスファルトを反射し、行く人々をフライパンに乗せた目玉焼きのように熱する。

 日本は今日も、ヒートアイランド現象のせいか、例年よりも記録的な真夏日を迎えていた。


 在来線が通る駅から10分程歩くと、公園で遊ぶ活発な子供の声が聞こえてくる。

 住宅地の間に構えた専門学校では、海の向こうの出来事で話題か尽きない。


 学生達はスチールの長机を囲んでネットの動画に群がり歓声を上げ、専門家の意見を聞いて各々が意見を述べていた。


 デスクトップパソコンの画面には、頭皮の見えたうさん臭い髭男が、北アメリカ大陸の地図を背に解説する。


『アメリカ南部、ニュージャージー州で震度6を観測。震源地はポイントブレザントと呼ばれる地域です。アメリカでは竜巻による被害が多いですが、地震による被害は極めて珍しいことで……』


 専門家は手元の資料を見直す。


『街は壊滅状態で、現在救助活動が続いています。ポイントブレザントは1966年に、吊り橋が事故により川に落下し、死傷者を出しています』


 海の向こうの災害に、専門校の学生が興味を持つには理由があった。


「モスマンだぜ? きっとモスマンの仕業だぜ。橋の事故のとき、モスマンが予言したらしいぜ」


「モスマンって本当にいるの?」


「モスマンだけじゃねぇよ。ポイントブレザントって他にもUFOとかモンスターの目撃情報があるとこだよ。今だったら手足の長いスレンダーマンがいるかも?」


 皆が気味の悪いオカルト的推測を話すと、パソコンに向かう学生が言う。


「地震かどうかも怪しいらしい、アメリカのサイトとかでも、ポイントブレザントは"街が液化したように建物が溶けた"って書き込みがあるよ」


 それを聞くと学生達の憶測が、真夏のアスファルトのように白熱した。


 UFOからのレーザー砲による攻撃説。

 怪人モスマンによる異能力溶解説。

 あるいわ巨大不明生物による破壊光線。


 全てアニメやSF映画に出くるネタに照らし合わせられた。


「クロト。見ろよ?」


 小太りオカメ顔の男子学生の呼びかけを受け流す

学生は、皆が群がる席に背を向け、自分のパソコンに黙々と作業を行う。


 髪は耳を覆うほど長い為、前髪を髪留めで端に避けたエスニック風のファッション。

 くりっとした目の童顔を引きつらせ、那由多なゆた・クロトはつっけんどんに答える。


「今それどころじゃないよ! 課題、今日までに仕上げないと!」


「それ先週のだろ? まだ終わってなかったのか?」


「記憶が……バイトで疲れて寝ちゃったりで、なかなかやれなかったんだよ」


「お前、バイトはっかりで学校は大丈夫なのかよ」


クロトは友達の心配に明確な答えが出せず口ごもる。


 東京都中野区。

 東は山手線を周辺の新宿区や港区方面の沿線、西は中央線沿いの吉祥寺や三鷹に続いている為、東と西、通勤の利便性に長けた街だ。


 中野駅周辺は名門大学が移動して来た為、学生街としての大規模な開発が進んでいる。

 そんな歓楽街から離れた、住宅地に隠れるよう作られた専門学校。


 商店街裏側の団地に挟まれた専門校は、頭上からマンションが降って来たせいで、押しつぶされかのように歩道より1段下がった位置にある。

 アニメ、CG、ゲームを専行する同施設は、旗を掲げても、その主張が霞んでしまいそうな程、目立たない。


 那由多・クロトは父親がプラグラマーということもあり、彼も自然とプログラムに関する仕事を目指すようになる。


 ゲームの専行というクリエイティブな方面に進んだのは、彼自身がゲームに心酔し、現実では得難い感動が忘れられないというのが大きい。


 自分もいつか、ゲームを通して人々に素晴らしい体験と感動を与えたいと夢に邁進する。

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