園田さんはデスゲームがしたい!!

通 行人(とおり ゆきひと)

ゲームの時間

 ①


 ……この国には、想像を絶するクズヤロー共がいる。


 汚職をしている政治家?

 子供を虐待する親?

 それとも強姦魔や殺人鬼?


 どれも不正解。そいつらに比べたらまだまだカワイイものだ。


 そのクズヤロー共の名は『DGエンターテイメント』

 全国各地で『プレイヤー』を拉致監禁し、プレイヤー達に文字通り、生命を賭けた遊戯……『デス・ゲーム』を行わせ、そして、その光景を『エンターテイメント』としてお客様に提供する非合法組織……


 ちなみに『お客様』と言うのは、超が付くほどの大企業の会長さんや、大物政治家、海外の資産家など……ここだけの話、お客様リストの中には警視総監の名前もあるのだから、世も末だ。


 こいつらは皆、金さえ払えば誰でも体験出来るような娯楽には満足出来なくなってしまい、その結果がDGエンターテイメントが主催するデスゲームを利用した血生臭い賭けであり、一般人が聞いたら卒倒しそうな額の金を飛び交わせている。全く……反吐が出るようなクズ共だ。



 ……ま、そんなクズ共のお陰で、私も良い暮らしが出来ているのだから、滅多な事は言えないが。



 ……私の名は『園田そのだ ティナ』DGエンターテイメントに所属するデスゲームの進行役『ゲームマスター』のトップランカー(女性・28歳)である。



 あ、私の年齢書いた奴、次のゲームにプレイヤーとして参加させといて。



 さて……お仕事お仕事!! 今日もお客様に最高に過激で凄惨で刺激的なショーをお届けするとしましょうか!!


 ②


「さてと、今日のプレイヤーさん達は……っと?」


 目の前のモニターには、四方をコンクリートの壁に囲まれた薄暗い部屋の中で、六人の男女が倒れ伏しているのが映し出されている。

 部屋の中央には円形のテーブルと人数分の椅子が用意してあり、テーブルの上には、今回のゲームの為に用意した機材が置いてある。ティッシュ箱くらいの大きさの金属製の箱で、天面に液晶パネルと赤いボタンが一つだけ付いたシンプルなデザインの機械だ。


 睡眠薬の効果が切れるまで、まだ時間がある。私は哀れな仔羊達の資料に目を通した。


「ふむふむ……今回は全員高校生かぁ……ま、夏休みだもんねぇ」


 全員同じ高校か……ええと、茶髪の『ヤンキー君』に、このいかにもガリ勉っぽいメガネ君は『生徒会長』にするか、あとは『美少女ちゃん』に『イケメン君』、この子はボウズ頭だし、多分野球部でしょ……『高校球児』にしよう。後の一人が……うわー、こう言う特徴の無い子が一番困るんだよなー、まぁ『普通君』でいいか。


 名前は覚えない。情が湧くと困るし、どうせすぐ死ぬ。


 高校生達の首には全員、金属製の首輪が取り付けられている。ベタ過ぎて、今更説明する必要も無いかもしれないが、外そうとしたり逃げようとしたり、ルールに従わないプレイヤーを “どかーんっ!!” とするアレだ。


 しばらくすると、モニターの向こうに動きがあった。プレイヤー達が目を覚まし始めたのだ。


「な、何だよここ……!?」

「俺達、どうなったんだ……!?」


 戸惑う少年達をモニター越しに見ながら、私はコーヒーをすする。ここでいきなりゲームについての説明を始めるのは、新人ゲームマスターのやりがちなミスだ。

 いきなりゲームを始めようとすると、ただでさえ状況が掴めずに混乱しているプレイヤーがパニックを起こし、ゲームの進行が滞ってしまうのだ。

 状況説明を始めるのは、ある程度時間を与えて、プレイヤー達に自分達が置かれた状況を理解させ、恐怖と不安を抱かせてからだ。


 私がコーヒーを飲み終わる頃には、プレイヤー達は、自分達が部屋に閉じ込められて脱出不可能だという事、そして首輪を外す事も不可能だという事を理解したようだ。さてと……そろそろ行きますか!!


 私は、プレイヤー達の爆弾付き首輪と、マイクの電源をオンにした。


『やぁ、みんな!! おっはよー!! 目覚めの気分はどう? 夏休みだからっていつまでも寝てちゃあダメだぞ☆』


 部屋の天井から吊るされたスピーカー内蔵のぬいぐるみから、変声へんせいされた私の声が流れる。

 ちなみに、吊るされているぬいぐるみは、私が飼っている犬を元にデザインしたマスコットキャラクター、『デッドちゃん』で、職場の皆からも大好評である。

 唯一、デッドちゃんを『なんかブサイクですね、コイツ』と笑った田中君は……プレイヤーに指名してから、随分長い間、顔を見ていない……元気かな、田中君?


『みんな、ゲームは好きかな? 大好きだよね? みんなで楽しくゲームをしよう……勝った人はここから出してあげるよ♪』

「勝った人はって……ま、負けた奴はどうなんだよ!?」


 お、良い質問だねぇー、ヤンキー君。私はニヤリと笑った。


『うーんとねー、負けちゃった人はねぇー…………死ぬよ』


 この『死ぬよ』の部分だけ冷徹に言うのがポイントだ。モニターの向こうでは美少女ちゃんが恐怖の悲鳴を上げている。良いよー美少女ちゃん、そういうの、客のサディスティクなエロオヤジ共が喜ぶんだわ。


「そろそろかな……」


 私は脱出口のオープンボタンを押した。ロックが外れ、扉が開く。これには別モニターに表示されている客達も驚きを隠せないようだ。ふふふ、慌てない慌てない。ここからが、トップランカーの腕の見せ所だ。


『逃げたかったら逃げてもいーよ☆』


 それを聞いた途端、高校球児が他のプレイヤーを押し退けて出口を通過した。そしてその瞬間、私は首輪の遠隔爆破スイッチを押した。高性能小型爆弾が炸裂し、哀れ高校球児君の首はゴロゴロと残りのメンバーの前に転がった。


 恐れおののくプレイヤー達を見て、お客様達もご満悦のようだ……いつでも出られるのに出られない。この演出はそこらのゲームマスターには、まず出来ない。


『ああ、そうそう言うの忘れてたけど、逃げたくなったらいつでも逃げて良いけど……この部屋から出ちゃうと、さっきの彼みたいに頭ホームランされちゃうから気をつけてねー?  あ、それと首輪を無理矢理に外そうとしても頭かっとばされるからねー? さぁさぁ、席に着いて? 楽しいゲームがはっじまるよぉー♪』


 残された五人は……ちょうど五人分用意された席に座った。


 最初から一人は見せしめになってもらうつもりだった。駆け出したのが、美少女ちゃんじゃなくて良かった。彼女がより長く、怯え震える姿を見せた方がエロオヤジ共が喜ぶ。


『じゃあ、今からルール説明をするね☆ ルールはとーっても簡単、君達の中から『コイツ、死んでも良いや』って思う人を二人選んでね!! ワースト1とワースト2の人はテーブルの上のマシンを使って対戦してもらいます。と言っても簡単です。機械の上にあるボタンを交互に押していって《当たり》が出たら…… “どかーんっ!!” だよ☆ みんな、ルールは分かったかな?』


 プレイヤー達は互いに顔を見合わせている。いいねー、いい具合に疑心暗鬼に狩られてるねぇー。

 私がほくそ笑んでいると、ヤンキー君がおずおずと手を上げた。


『なんだい?』


「あの……もっかいルール説明してくれねぇか? 難し過ぎてさっぱり分かんねぇ!!」


『……は?』


 思わずが出てしまった。ヤンキー君の言葉を聞いて、美少女ちゃんも恥ずかし気に手を上げた。


「実は……私もなの」


 美少女ちゃんに続き、イケメン君と普通君も手を上げた。


「実を言うと俺もなんだ……」

「僕も……」


『マジか……あっ、ゴホン!! じゃ……じゃあ、もう一回説明するね☆』


 私は再度ゲームのルールを説明した。これ以上ないほど、ゆっくりと、丁寧に。しかし……


「やべぇ……全然分かんねぇ……大体、『ワースト』って何語だよ……」

「多分、中国語だと思う……」

「つまり……?」

「どう言う事なんだ?」


 ヤバイ、コイツら絶対に理解してねーぞ……。私が思わず「嘘でしょ……」とつぶやいたその時、さっきからずっと黙っていた生徒会長君が手を上げた。


「みんな聞いてくれ、つまりこのゲームのルールはこうだ……」


 おお、さすが生徒会長君!! 頑張れ!!


「……このボタンを押して、最初に当たりが出た奴の勝ちだ!!」


 コイツが一番理解してねぇ!!


 言うが早いか、生徒会長君はボタンを押した。止める間も無かった……不運にも一発で《当たり》を引き当ててしまった生徒会長君は爆死した。


「「「「せ、生徒会長ーーーっ!!」」」」


 四人の悲痛な叫びが部屋に響く。生徒会長の無惨な死に、イケメン君が端正な顔を歪ませ、絞り出すように呟く。


「馬鹿な……!!」


 それはコッチの台詞だよ!!


「そ、そんな……確かに《当たり》を引いてたのに……」


 いや、美少女ちゃん……『当たりを引いたら死ぬ』って私言ったよね!?


「ま、マジかよ……学校一の秀才のアイツが……」


 アンタ達の学校大丈夫か、ヤンキー!?


「やばい……やばいって!!」


 お前が一番ヤバイわ!! 何で全裸になってるんだ普通君!? 一体いつの間に!?


 と……とにかく、今はこの事態を収拾しなければ!! 私にはゲームマスターとして、ゲームのスムーズな進行とお客様を楽しませるという使命があるのだ。


『と、とにかくみんな落ち着こうか☆ あと、君は服を着よう? ね?』

「……信用出来ません。服を着た瞬間に、首輪を爆破する気じゃないでしょうね? 現に会長は《当たり》を引いたのに殺された……!!」

『いや、《当たり》を引いたから殺されたんだよ!! いいから早く服を着ろ、着ないと爆破すんぞ!!』

「くっ……いいでしょう、これで!!」

『下も履きなさい!!』

「くっ……」


 並のゲームマスターならパニックを起こしているであろう事態を、私は収拾させた。これがトップランカーの腕前だ。


『さぁ、続きを始めようか☆』


 こうなったらこのバカ共にも分かるルールに変更だ。


『今から、このテーブルの上の機械のボタンを一人ずつ順番に押して、《当たり》が出たら…… “どかーんっ!!” だからね? いいね、《当たり》を引いたら死ぬんだよ!?」


 流石のコイツらも理解してくれただろうと思ったら、おもむろにイケメン君が手を上げた。


「みんな聞いてくれ、ここを脱出する方法を見つけた!!」


 そんなの絶対に無理に決まっているが、お客様が興味深そうにしているので、敢えてそのままにした。


「首輪を……外せば良いんだよ!!」


 いや、そらそうだけども……


「そんなのどうやって……」


 ヤンキー君のもっともな疑問に対し、イケメン君は自信満々に答えた。


「あのマスコットは言っていた。首輪を『無理矢理に』外そうとすると爆発すると……だったら……『自然な感じで』外そうとしたらいけるはずだ!!」


 私も、モニターの向こうのお客様達も思わず椅子からズリ落ちた。そして、その間に事件は起きた。


「よぉ、相変わらずイケメンだな、お前」

「いやいや、そんな事ないよ……あれ? 首に何かついてるよ?」

「マジか-、ちょっと取ってくんね?」

「分かった」


 イケメン君が自然な流れでヤンキー君の首輪に手を伸ばし、首輪を引っ張った瞬間……


“どかーんっ!!”


 自然とヤンキー君の首輪が爆発し、ヤンキー君の首輪に顔を近付けていたイケメン君もごく自然に爆発に巻き込まれて死亡してしまった。


 ……私は焦った。ゲームを始める前に、プレイヤーの三分の二が死んでしまったのだ。

 お客様の顔がみるみる暗くなってゆく……このままではマズイ!!



『さぁ、デス・ゲームを始めよう…………お願いだから!!』



 私は必死にデスゲームを進行しようとしたが、不意に肩を叩かれた。振り向くと、そこにはプレイヤー拉致部門のリーダーがいた。


「残念です、園田さん……お客様の満足度が20%を下回ってしまいました。あなたには次回のゲームでプレイヤーとして活躍してもらいます」

「そんな、待っ──」



 抵抗する間も無く、私は取り押さえられ、首輪をはめられてしまった。チクリとした痛みを感じた後、私は……抗い難い睡魔に襲われた。

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