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「わたくしはしっとりとしたバラード曲がいいと思いますわ」

「いーや! リクはノリノリな曲がいい!」

「二人とも落ち着いてよぉ。ここは間を取ってメジャーな曲にしよう?」

「あなたたちバカなの? 時間がないの! だからオーディションでやった曲にするのが普通よ!」


 Aチームは輪になって口論をしていた。

 まずどの曲をやるか決めることとなったが、各々がやりたい曲を一方的に言っているだけ。


 川谷は曲が決まるのを傍観していた。元々意見を出すタイプではない。


「リクはノリノリな曲は家で練習してたもん! だから大丈夫なの!!」

「洗濯板は黙っていてくださる? それとも頭の中も薄っぺらいのかしら?」


「んなーにをー!! やんのか令嬢風情!!」

「いいですわよ! 決着をつけましょうか!!」

「二人とも落ち着いてよぉ」


 立ち上がる三人。

 栗崎はため息をついた。


「川谷さん。この三人はいつもこうなの?」

「う、うん」


「川谷さんはずっと黙ってるけど、やりたい曲はないの?」

「私は皆で決めた曲なら、それでいいかな……」


 栗崎は肩眉を下げて、少しムスッとした。


「本当にアイドルになりたいの? 自分を売ろうとしない人は皆消えていったよ」

「…………私って結構可愛いと思うんだ」


 川谷はそう言った。


 後ろで取っ組み合いをしている陸と平野はピタリと止まった。

 小松も目を見開いている。


「え? なんで静かになるの?」


 陸はがっしり握っていた平野の髪を離して川谷の横に座る。


「いや。花菜ちゃんがそんなこと言うと思わなかったからさ……びっくりしちゃった」


「そうだよね。私って内気で静かだから。でもね、可愛いと思うんだ」

「いや。二回も言わないでくれる?」


 陸は半眼でツッコむ。

 川谷は笑顔で両手に小さく拳を作った。川谷のガンバルポーズ。


「さあ。曲はなににする? ケンカばっかりしてたらBチームに負けちゃうよ!! 平野さんも小松ちゃんも座って座って!!」


「ええ。そうですわね」

「清香ちゃんたちのせいであたしまで怒られちゃったじゃんかー」


 平野と小松はちょこんと座る。


「私一個思いついたんだけどね。選曲は自由って言ってたでしょ? だから、皆がやりたい曲をやるのが良いと思うんだ!」


 川谷はガンバルポーズの右拳から人差し指をピョンと立てた。


「花菜ちゃん? 頭変になっちゃった? 皆やりたい曲がバラバラだから決まらないんじゃん!」

「うんとね。メドレーにしちゃうんだよ!」


 四人は驚きの声を上げた。

 栗崎が口を開く。


「た、確かにメドレーなら皆やりたい曲ができる。それに、メドレーなら曲のサビ部分……おいしいところの集まり。真ん中にバラードを入れれば一曲の中でメリハリがでる」

「そうなの! いいと思わない?? これで皆ケンカしなくて済むでしょ??」


「わたくしはバラード曲ができるなら文句はありませんわ」

「リクもノリノリならいいかなぁ」

「あたしもそれがいいとおもう!」


 栗崎は少し驚いていた。

 川谷のことを金魚のフン、意見を言わないイエスマン。そう思っていたからだ。

 しかし、川谷は一瞬で喧嘩を収めた。さらに、皆が納得する案も。

 

「うん。それじゃ決めちゃおう!」


 皆が意気込んだところで栗崎が疑問を問う。


「メドレーやるのはいいんだけどさ。曲はどうやって作るの?」

「……うーん。どうしよっか?」


 ここで陸が立ち上がる。


「それならリクが編集して作るよ。リクこう見えてもパソコン得意なんだからね!」

「信用なりませんわね。海山さんは頭の中も洗濯板なんですもの」


「なにをー! ――でも本当だよ。リク生配信とかしてたし、動画も編集してアップしてたんだから! 音源はここにあるだろうし。編集機材もあるでしょ? ちょっと借りれれば一時間もかからないよ」


 川谷が手をパンと叩く。


「よーし。そうと決まれば選曲急ごう! お昼までには曲を作っちゃって練習したいし」


 陸はドヤ顔で腕を組む。


 こうしてAチームは選曲をし、陸の頑張りによりメドレー曲が完成した。


 時刻はちょうど12時を回った。


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