61 ※あとがきがあります

 空は平野の呼んだ救急車により病院へ運ばれた。

 理性を失いかけていた陸をなだめるため、平野も同行していた。


 医者は言った。

 命に別状はない。しかし、意識不明のこの状態は説明がつかない。回復の見込みもつかないと。 


 原因不明というやつだ。


 空は様々な検査を終え病室にいた。顔は青白く、意識はないまま。

 陸は丸椅子に腰かけ、空の手を握っている。


 平野の姿はない。

 陸が落ち着いたのを確認して病室を出ていったのだ。


 窓からはオレンジの陽が差し込む。

 心電図の音。空の呼吸音。


 病室の扉が開かれた。


 入ってきたのは六班メンバーと小松に平野、久保。


 皆空の姿を見て言葉を失っていた。


 平野は外で皆に事情を説明していた。

 

 空の周りにみな集まるが、川谷だけは入口で立ち尽くしていた。

 手で口を押えて震えている。


 川谷は似た光景見たことがある。

 一年ほど前のこと。病室のベッドの周りに親戚が集まり、皆涙を流しているのだ。

 気持ちよさそうな両親の目を瞑っている顔。

 今にも起き上がり、おはようと言ってくれるような顔。

 

 川谷は病室から飛び出して、どこかへ行ってしまう。


 これに気づいた湊は追いかけたが、すぐに姿を見失ってしまう。


****


 次の日。昼休み。

 A組の教室。六班の周りだけはとても静かだった。

 その他の生徒は皆札幌まつり三日目の話で盛り上がっている。


 陸は学校を休んだため登校してきていない。


 一口かじっただけのメロンパンを握る小清水。

 いつもなら数分で飲み込むように完食する小清水だが、今握られているメロンパンの大きさは10分前から変わらない。


 小清水の携帯がマナーモードで振動した。

 画面には『海山妹』と出ている。電話の着信である。


 小清水はすぐに電話に出る。

 すると、陸の焦るような声が耳元に響いた。


『空ニィが……空ニィがいない。空ニィがいなくなった』

「え!? どういうことだ!? 海山は意識不明なんじゃないのか!?」


 この小清水の声で、六班のみんなが集まってくる。


『朝、朝にきたときはいたの。でも、でも、いなくて。リク寝ちゃったから。朝きたときはいたの』


 陸は混乱しているのか、内容がめちゃくちゃである。そして、泣いているのか、鼻をすする音も聞こえてくる。

 小清水は陸を落ち着かせるようにゆっくり訊いていく。


「落ち着いて。ゆっくりでいいから。朝病院にお見舞いに行ったんだな?」

『うん。うん』


「そのときはいたんだな?」

『うん』


「でも、今はいないんだな?」

『うん。いない』


「海山妹は今どこにいるんだ?」

『病院。空ニィの病室』


「わかった。まず病院の人に確認するんだ。もしかしたら検査とかで違うところにいるかもしれない」

『うん。わかった。うん。うん』


「一人で大丈夫か?」

『うん。だいじょうぶ。リクだいじょうぶ』


「そうか。俺はいつでも電話に出れるようにしておくから、なにかあったらすぐに電話しろよ? とりあえず電話切るからな」

『うん』


 電話を切る。


 そして事件は病院でなく、学校で起こった。


 それは悲鳴から始まった。女子の悲鳴ではない。男子の悲鳴。

 その悲鳴は小清水達のいるA組の教室にも届く。


「なんだ!?」


 小清水は湊と共に廊下に出た。

 悲鳴は廊下を曲がった先から聞こえてくる。小清水たちの視界にはまだ入っていない。


 だんだんと近づいてくる悲鳴。逃げるような足音。


 そしてそれらは姿を現した。

 逃げる男子生徒数人。それを追いかけているのは淡い青色の病衣を着た人と、三角錐の形をした頭巾をかぶった生徒。


 病衣の人を見た小清水は声を漏らす。


「――うみ、やま!?」


 頭巾の生徒を見た湊は声を漏らす。


「――そうし、しゃ!?」


 二人は顔を見合わせた。


「亜樹。あの変なのかぶってるヤツのこと知ってるのか??」

「――あ、えっと……」


 湊は焦る。

 本当のことを言えば、自分がBL小説愛好会に顔を出していることがバレてしまう。

 その小説が小清水春と海山空ことイケメン君を題材にした内容ということもバレてしまう。

 さらに、小清水の情報提供者が湊であるということもバレてしまう。


 湊が焦って口ごもっている間にも、空と頭巾の生徒はA組の教室の方へ向かってくる。


 頭巾の生徒が叫んだ。


「見つけましたよぉ!! 小清水春!! さあ空さん!! 小清水春を襲うのです!!」

 

 小清水は自分の名前が挙がったことに動揺する。


「なんで俺なんだ!?」


 小清水は迫ってくる二人から逃げるために走った。


 小清水に目標を変えた空と頭巾の生徒はA組の教室前を過ぎ去る。

 追いかけられていた男子生徒たちは、肩で息をしながら廊下に倒れ込んだ。


 湊はその一人に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」

「――ああ。もう走れねぇ。でも助かったぁ」


「あの。なにかされたんですか??」

「なにって……あの病院のパジャマみたいなの着たやつが急に迫ってきたんだよ」


「迫ってきた?」

「ああ。それで、その……なんか知らねえけど、俺のズボンを下ろそうとしてくるんだよ! エロい顔で!」


「エロい顔で!?」

「くそ。気持ちわりーまねしやがる」


 湊は一瞬ときめいたが、首を振り冷静になる。

 あの頭巾は間違いなくBL小説愛好会の部室で見た頭巾。


 湊は走った。

 向かうのは三年生の教室。BL小説愛好会の部員、渕田ふちた三雲みくもの元へ。

 渕田ならなにか知っているかもしれない。と。



********

 【あとがき】

 この61話目投稿日の9月20日。この日は『空の日』ということで、『俺のスマホはこんにゃく』の日常的短編を投稿しました。

 本編には関係のない内容となっています。


 空と陸、クニツルの平和な・・・日常を書きました。


 些細なことで機嫌を損ねた陸のために、空は『あるお願い』をクニツルにします。

 日本を巻き込むそのお願い。

 そして始まる空と陸のバトル。


 クニツルはその願いを叶えることはできるのか?

 そのお願いの内容とは?

 なぜ空と陸はバトルするのか?


 文字数3000字強の短編です。

 楽しんでいただけたら幸いです。


 ななほしとろろでした。

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