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三年の教室棟。
湊は三年生の教室にたどり着く。
渕田は席で昼食を食べていた。机の上に弁当を広げ、片手には小説。
「渕田先輩!」
渕田は慌てて入ってくる湊に気づく。箸を止め、小説を閉じた。
「湊ちゃん。どうしたの? 三年生の教室に来るなんてめず――」
「聞きたいことがあるんです!」
湊は机に両手を叩くようにおき、尋ねた。
「聞きたいこと?」
「創始者のことです! 変な頭巾かぶった人は創始者なんですよね?」
創始者という単語で渕田は眉を下げた。
「ごめんね湊ちゃん。あの人のことは口外しないように言われているんだ」
「でも――その人、一年生の階で暴れてるんです! 私の友達と一緒に男子生徒を追いかけまわしてるんです!」
「その友達ってのは男?」
「はい。意識不明だった友達です。入院していたはずなのに……。しかも男子にいやらしいことしようと……」
「どういうこと?」
湊は説明した。
空のこと。さっきA組の教室前で見たこと。
空がイケメン君だということは伏せた。
「んんー。スクープね! 取材に行きたいわ!」
渕田は目を輝かせている。
「渕田先輩!」
「だって、あの小清水君が追いかけられているのでしょ? もし捕まったらあんなことや、あーんなことも。ぐひひひひ」
「もう! そんなこと言っている場合じゃないんですって! なにか知らないんですか? あんなことをしている理由!」
「ごめんね。わーにはなにも分からない」
「せめて正体だけでも!」
「うーん。…………わかった。絶対に口外しないでよ?」
渕田は湊の耳元に口を近づける。
「生徒会副会長の椿沢涼子だよ」
****
そのころ。
空や陸のいない海山家の空の部屋。
勉強机の上で急に飛び上がった柔らかな直方体。
ぺチンと着地し辺りを見回すように直方体をひねらせる。
「結構寝たな。今日は何日だ?」
その直方体。こんにゃくのクニツルは画面を光らせた。
「16日。昼。か。五日間程寝ていたようだな」
クニツルは部屋を再度見る。
壁に掛けてある空の制服。机に掛けたままの学生鞄。
いつもならきちんと直されているベッドの布団は荒らしたようにめくれている。
入口の扉も開きっぱなし。
そしてラベンダーの香りの中に紛れる腐臭。
「ふーむ。臭いな。それに、空坊は学校には行っていないのか?」
クニツルは机をヒョイと飛び降り、ベッドに登る。
そして、入念に枕やシーツ、布団の匂いを嗅いでいく。
「ふーむ。やはりあのときの匂いは間違いではなかったか。空坊は無事なのか?」
ベッドの上で体をひねりながら考えているクニツル。
そのとき、クニツルの体から連続的に着信音が鳴った。
「――な、なんだ!?」
全てメールの着信であった。
5日間溜まっていたメールが一気に受信したのだ。
メールは全て椿沢から。
「あのくすんだ目の女か。こんなにメールを送りおって。空坊はあの女を大層気に入っておったな」
クニツルはメールの内容を確認せずにアプリを閉じた。
「今はちょうど昼休みの時間だな」
クニツルは陸に電話をかける。陸はすぐにでた。
『空ニィ!! 今どこなの!? 空ニィ!!』
「おう小娘。俺様だ。あいにく空坊はいない。学校にいるのではないのか?」
『く、くにつる? 動けるようになったの!? あ、電話できるってことはそうか』
「ああ。少しばかり寝すぎたがな」
『そんなことより大変なの!! 空ニィが――』
クニツルは寝ている間の出来事を陸から聞かされた。
『だからあんたも空ニィ探すの手伝って!! あ。ちょっと待って、メールがきたから』
「ふむ…………」
『え!? 学校に!? ……クニツル! 聞いてる?』
「うむ」
『いま平野からメールがきたの。空ニィが学校で暴れてるって』
「ふむ」
『リクは学校に向かう! それじゃ切るね!』
「うむ」
通話が切れる。
クニツルは考えていた。
――空坊の症状。それにこの部屋の腐臭。俺様が匂いに気づいたのは五日前。空坊が意識不明になったのが昨日。小娘は黒魔術をしていない。
誰がやつを呼んだ? いや、誰かが憑りつかれているのか。小娘ではない。亜樹の嬢ちゃんは……怪しいが、垂れ目を好いておるし可能性は低い。
川谷の嬢ちゃんか? それは絶対にないな。となると……。
俺様としたことが、なぜもっと早く対処しなかった。匂いで気づけたはずだ。くそ。俺様の勘を鈍らせたのはなんだ。
ああ……。ルティたんか。そうだ。ガチャを引けないと落胆していた。しかしもう空坊との約束は果たした。ガチャも引ける。ルティたんをお迎えできる。
さっさとやつを裁いてガチャを引くぞ。空坊は学校にいると言っておったな。
クニツルはつるんと立ち上がった。
ベッドから飛び降り、部屋から飛び出す。
階段の手すり上を滑り、華麗に一階へと向かう。
玄関に着いたクニツルは、器用に鍵を開けた。
そして家を飛び出した。
向かうのは空のいる学校。
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