34

 時間は少しだけ戻り、小清水湊組。


 二人は空組を教室で見送った後、購買に行き昼飯を購入した。

 その足で真っすぐD組の教室へ向かう。


 教室に着いた二人。中を確認するが陸の姿はない。

 聞き込みをしたかった二人にはかえってやりやすい。

 湊は一人の女子生徒の元へ向かった。小清水も後ろをついていく。


 彼女は湊に気づくと軽く手を上げ笑顔になった。

 湊も胸を揺らしながら手を上げた。


「よっ! クボミ今大丈夫? 訊きたいことがあるんだけどさ」


 クボミと呼ばれた彼女は久保くぼ美羽みう

 赤縁の眼鏡。黒い髪は三つ編みでまとめられ、右肩からさげられている。

 中学から湊とは仲が良く、小清水も何度か話したことがある。


 今昼ご飯を食べようとしていたらしく、机の上には弁当箱が広げてある。


「なに、かなー?」


 久保はか細い声でゆっくりと声を発した。

 湊は耳元に寄り小声で話す。


「あのさ。ここでは話しにくいんだ、私たちの教室にきてもらってもいいかな?」

「うーん。いいよー。今お弁当フタするねー」


 久保は弁当の蓋を手に取る。

 動きはとても遅い。ゆっくりゆっくりと蓋をし、箸をケースに閉まっていく。


 小清水は顔をしかめて頭を掻く。

 久保ののろさが苦手なのだ。


 A組の教室に戻り三人は机で昼食を広げる。

 

 久保はゆっくりと弁当箱の蓋を開けながら訊く。


「でー、さっき言ってたのはーなにー?」


 湊は辺りを見回しD組の生徒が紛れ込んでいないかを確認した後、机に乗り出して顔を近づける。


「陸ちゃん知ってるでしょ? 海山陸。最近なんか変なことはない?」


 久保はゆっくりと首をかしげる。そしてゆっくりと首が戻る。


「変かもー。なんかね――」


 久保はゆっくりと気づいたことを話した。

 内容は、いつも一匹狼・・・・・・の陸に二人の女子生徒が近づき始めたこと。

 その二人はクラスでも評判が悪く、皆近づくの嫌う存在。

 よく陸を呼び出したりしてどこかへ行っている。と。


 ずっと顔をしかめて聞いていた小清水が疑問を投げる。


「あのさ、海山妹ってクラスでいつも一人なのか? 海山から聞いてる話だと、いつも一緒に登校してる友達がいるって聞いてたけど」

「うーん。他のクラスの人なのかなー? D組では見たことないかもー」


「亜樹。どう思う?」

「んー。ただ他のクラスに友達がいるんじゃない? A組では聞いたことないし、C組かな?」


 小清水はあんパンを持ったまま立ち上がる。


「俺ちょっくらC組行ってくるわ」


 湊と久保は頷く。

 小清水が教室を出ていくと、久保が訊く。


「なにかあったのー?」

「んー。クボミは信用できるし話してもいいかな」


 湊はクニツルのことは伏せて内容を話す。


 一方C組に着いた小清水。

 教室の後ろでたむろしている男子三人組の中に混ざりにいく。


 垂れ目を全開にした笑顔で、手を上げる。


「よ!」

 

 馴れ馴れしい小清水の態度に三人は困惑する。


「お前誰だよ?」

「A組の小清水。ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」


 そのとき廊下から音が聞こえた。誰かが走っている音である。

 小清水は気にせず続ける。


「D組の美少女知ってるか? 金髪ツインテールのさ」

「ああ、知ってる。男子ならみんな知ってるんじゃね?」


「その美少女がさ、このクラスの誰かと友達らしいんだけどお前ら知らない?」


 三人は顔を見合わせ首をかしげた。


「いや。知らない。ってか、恐らくうちのクラスにきたこともないぜ?」

「……そうか。ありがとな!」


 小清水はその後も何人かに訊いてみたが、皆首を横に振った。そしてB組も同じであった。



 教室に戻った小清水に湊が声をかける。


「春! 海山君たちが戻ってきたよ」

 

 空は平然としているが、川谷は肩で息をしている。

 席に着く小清水に空は言う。


「加藤先輩と三人組は黒だった」

「そうか。まあそうだろうとは思ってたけどな。俺はB組とC組に聞きに行ってたんだけど、そのことはもう聞いてるか?」

 

 空は頷く。


「BCにはいなかった。それどころか、教室にきたのを見たことすらないって」

「そっか」


 空は下を向き眉を下げた。そして胸が締めつけられる。


 久保は弁当を食べ終えゆっくりと片付けている。

 そんな中、湊は立ち上がり小清水の腕を引く。


「さあ、もうひと仕事行くよ」

「え? なに?」


「クボミが言ってたD組の二人から直接聞くの。そのためにこれ買ってきたんでしょ。クボミも早く片して」


 湊はそう言って紙袋を掲げる。

 中入っているのは脅しの道具。共犯者を発見できた場合のために用意したもの。大きさは両手に収まるサイズ。


 三人はD組に到着する。

 久保は教室真ん中辺りに位置する自分の席に座る。

 湊は小声で訊く。


平野ひらの小松こまつってのはどいつ?」

「後ろのー掃除用具入れのところにいる二人だよー。髪の毛長い方がー平野さん」


 平野と小松。小清水が聴きに行っている間に湊が聞いていた名前。

 湊は確認すると一目散に向かおうとした。しかし、小清水がそれを止める。


「ちょっと待て。亜樹……本当にやるのか? ちょっと気が引けるんだけど」

「いまさらなに言ってんの? それにあれ・・をくらうのは私なんだから、春が気にすることないじゃん」


「亜樹がやるから気が引けるんだろーが」

「春にやらせるわけにはいかないの! いいから行くよ」


 湊は渋る小清水を引き、二人の元へ向かう。

 湊から協力要請を出されていた久保も後を追う。


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