俺のスマホはこんにゃく

ななほしとろろ

俺のスマホはこんにゃく

chapter0

何者かの録音メモ

「早速だが。この俺様が『この物語』の主人公となる空坊そらぼうについて話そう。


 そうだな。空坊ってのは俺の主『海山うみやま そら』のことだ。インパクトのある名前だと思わないか? 海に山に空ときたもんだ。

 さぞかし自然が好きなんだろうなと思ったよ。でもクソインドア眼鏡野郎だ。


 身長は173。体重55キロ。右利き。髪は黒いな。そして短い。針金みたいに固くツンツンした頭してやがる。俺様は何度か空坊の髪に刺さったことがある。

 あとは童貞。まあ高校一年生だし普通っちゃ普通かもしれんがな。


 友達は少ない。彼女もいない。空坊からしたら彼女ってのは都市伝説だ。子供は鳥が運んでくるか、橋の下に落ちてるもんだと思ってる。あとは桃から出てくるとかな。

 

 空坊は眼鏡をかけているんだが、この眼鏡がまたレンズが分厚い。瓶底程のレンズが入った丸眼鏡。

 これがまたダッサイんだわ。そのせいか全く女子にモテない。コンタクトにすればいいのに拒否しやがる。異物を入れるのが嫌なんだとよ。

 裸眼だと数センチ先も見えないらしい。だから眼鏡がないと空坊は機能しない。ってことは眼鏡が本体。こんな理屈でオッケーだ。


 目が悪いせいなのか運動音痴なのか、どっちのせいか分からんがしょっちゅうタンスやらベッドに自分の足をぶつけてもがいている。

 おかげで空坊は足の小指が少し腫れている。

 この俺様が身をもって冷やしてやったことだってあるんだぜ?


 性格は、そうだな。一言でいうと『クソ真面目几帳面』。

 学校の準備は前日にしっかり済ませているし、一週間分の着替えを順番にタンスにしまっていたり。

 毎日授業の予習もしている。友達と遊んだりしないのかと聞いたこともあったが、その時の空坊の顔を見て俺様は二度と聞かないと心に刻んだよ。


 この世界には『ただしイケメンに限る』という言葉があるらしい。

 イケメンなら許せてしまうというアレだ。

 立ちくらみでふらついた女子に肩を貸す。これをブサメンが咄嗟とっさにやると犯罪者扱い。ただしイケメンは可。女とはあまりにも難しい生き物だ。

 ブサメンが調子をこいてギターを買ったとしよう。隠れて練習して学校で披露するが見向きもされない。しかし、練習もしていないイケメンがギターを担いで教室に入ってきたらどうだろう?

 つまり現実はあまりに酷。そういうことだ。


 でも、俺様はこれの切り替え・・・・をできる男を知っている。ブサメンからイケメンに切り替えができる男。

 ただ本人はそのことに気づいていない。じつにもったいない。


 その男ってのは、まあ空坊なんだが……。

 空坊は眼鏡を外すと超絶イケメンなのだ。眼鏡を外せば女子達からは美男子や王子様。そんな普通名詞がつくだろう。

 もし空坊に男友達ができたら、腐りきった女子達からの人気も出るだろう。しかし、それを台無しにしているのは空坊の本体。眼鏡だ。


 俺様がどれだけ格好良い今風のファッションにコーディネートしても、全部眼鏡がぶち壊してきやがる。

 でもコンタクトは嫌。まあ本人がそれでいいなら俺様はもうなにも言うまい。


 最近気になる娘ができたのか、俺様を使って色々と検索しているようだ。

 インターネットにあるモテ知識を頭に入れるよりコンタクトにするのが手っ取り早い。俺様はそう思う。

 

 眼鏡外して壁ドンして顎クイして好きだと耳元でささやく。これでオッケーだろうが。

 なにをそんなに遠回りする必要がある。

 空坊はよほど俺様を信用していないようだな。


 おっと。空坊が風呂から上がったみたいだ。

 今日の録音はこれくらいにしておくか」


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