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 女性恐怖症? そう言えば以前そう言っていたような気も・・・?

「昔に、その、あることがあって、その、女の人が、怖くなったんですけど」

 日下部さんくらいのイケメンだったらきっと幼少期も人目を引くような美少年だったんだろう。だからこそ嫌な思いも沢山したのかもしれない。

「それなのに、多分、僕、彼女のことを・・・」

「好きになってしまった?」

 訊ねると彼は少し考えるようにして俯いて、本当に小さく首を上下に動かした。

「変ですよね」

「どうして?」

「・・・だって嫌いなのに、怖いのに、こんな気持ち・・・」

 持ち上げた顔はハの字眉。紡がれた言葉は少し震えているようだった。

 きっととても戸惑って言うんだろう。心と脳がリンクしていないから。

「彼女のことを思うと胸がドキドキします。こんな気持ち、初めてなので好きなのかどうか、本当のところは分かりません、でも」

「でも?」

「彼女に触れたいと思うんです。それからもっと笑顔を見て見たいって。僕は彼女と上手くお喋り出来ないけれど、一生懸命聞いてくれて笑ってくれるんです」

「そうなんですね、素敵な方ですね」

「はい、とても素敵な人です・・・僕が女の人を苦手なことも多分知っているんですけれど、それでも良くしてくれて」

 そこまで言って少し楽しそうにしていた顔がまた曇ってしまった。

「それなのに、こんなの、変ですよね」

 怖い、と言葉に感情が滲む。自分のことが分からなくなってしまったように。

「変じゃないですよ」

「・・・本当ですか?」

「もちろん、日下部さんは変じゃないです。女性恐怖症でも女性のことを好きになることも変じゃないです」

「そうでしょうか」

「人間はしばしば心と脳が繋がらない事があるんです。心では白だと思っていても、脳は黒だと言う、そういった事が起こることがあります。それが今、日下部さんにも起こっているだけの事」

「どうしたら脳にも白だと教えられますか?」

 不思議そうに聞いていた彼はそう訊ねた。心に黒をではなく、すっとそう訊いた。

「教え込むしかありません」

「え」

「これは白だと教え込むのです。最初は大変かもしれません、けれど単語を覚えるように脳がそれは白だと覚えるようになるはずです」

 真っ黒を白く塗り直すのは何度も何度も塗らないと真っ白にはならない。苦労しないはずはない。けれどその微笑みを見ると日下部さんはもう既にペンキの付いたハケを手にしたように見えた。

「頑張るしかないですよね」

「どうか無理はされませんように。いつでも休みに来て下さいね」

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