白いペンキ缶
カゲトモ
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「困ったことになりました」
そうしんみりと話し出したのは時計の針が零時を回ってから来店した、くたびれたシャツ姿の男性だった。
「日下部さん、どうしました?」
以前ネームホルダーを首から下げたまんま来店したことのあるちょっとドジな日下部さん。イケメンだし背も高いし、しゃんとしていたらきっとモテモテだろうに、黒縁眼鏡の奥の疲れたような瞳とその猫背がオーラを上書きしているような気がしてならない。そのちょっと惜しい感じが日下部さんの良さでもあるけど、なんてのはあんまりに失礼か。
「実は」
ゆっくりとした口調で言い出した言葉はすぐに打ち切られて、考えるようにまた閉ざされた。それから一口、金色のボール・パークを飲み込んで不安そうな顔で言った。
「出来たんです」
・・・え? 子供? 確か独りだったよね?
「いや、その・・・好きな、人が」
「あ、なるほど」
そうかそうか、急に「出来た」なんて言うからてっきり子供なのかと。実は遊び人だったのかと思ったわ。ドキドキした。
「それは良かったではないですか」
「いや、良くないです」
さらりと言ったのに彼は即答で返す。どうして良くないわけ? もしかして好きになっちゃいけない人でも好きになったとか?
「いや、ある意味? そうって言うか」
ある意味好きになっちゃいけない人? 旦那さんのいる人、とか? それともかなり年下の子とか? または同性? でもそれなら別にいいんじゃ?
「そうじゃなくて・・・」
「そうじゃなくて?」
「僕、女性恐怖症だから・・・」
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