正直者(嘘)南さん
めい
第1話 席替え
『32』と紙には書かれていた。
「ここだ。」
「隣だね、真島君。」
教室の蛍光灯でつやつやと光る長い髪、二重に飾られた形のいい瞳。
山の上中学校(山の上になんかないけど)の3年生なら誰だって知っている学校一の美女、南さんだ。
「よろしく、真島君。」
「ん、ああ。」
素っ気ない返事をしといて、内心では。
やべええええええ!
俺、ラッキーすぎるだろ!
周りの男子の視線が痛いほど突き刺さってくる。みんな、うらやましいだろ!
ついに来た。
春、爛漫。
14年と少しの人生。
中学三年の4月、ついに俺にも青春が!!
「なんかいいことでもあったの?」
「え?」
周りを見てみれば、立っているのは俺だけだ。席を移動し終わったので、みんな席に着いている。
やべ。
先生が苦笑していた。
あわてて座ったら、頬杖をついた南さんと視線がばっちりあった。
「それじゃ、朝の会始めるぞー。」
とんとん、と机の端を叩かれた。キレイな卵形の爪、南さんだ。指と机の間には、小さな紙切れ。
『なんかいいことあったの?』
な ん で も な い
と、唇だけで言ったら、
突然南さんが俺の耳元に手を当てて、
「うそつき。」
耳から熱が伝染して、体中が熱くなっていくのが自分でも分かった。
また紙切れが来た。
『私、うそには敏感だから。』
覚悟しなさい、とでも言いたげな顔だ。その表情もなんとも美しい。
このときには、この言葉の意味をまったく理解していなかったのだと、今では後悔している。
正直者(嘘)南さん めい @meijemthrk7
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