待ってて勇者さま!〜異世界でお姫様と勇者を救う旅をする〜

ここのつ

STAGE1 「結成!臨時パーティ!」

1-0 プロローグ

ーー照りつける日差しの中をひたすら歩き続けた。どこまで歩けばいいのだろうか。体力ももう限界だ。見渡す限り緑の広がる大草原。人の気配は全くない。



どうしてこうなったのか。


気づいた時には知らない場所、見たこともない大草原に1人立っていた。


わけも分からず歩き始めて数時間。


未だに状況は飲み込めない。



白衣を来て草原を歩き続けている青年、相田皐月(あいださつき)は数時間前のことを何度も思い返していた。ここにいる原因を探すために。


「やっぱりアレのせいなのか・・・?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



その日は午後に簡単な実験のある日だった。言ってしまえば液体と粉を温めながら混ぜるだけ。あとは機械で数値を測ればおしまいというものだった。

出席番号で決められたいつものグループで実験をはじめたが大体いつも通り皐月がほぼ進めている。


「ツッキーいつもありがとねえ。やっぱ真面目だなあ。ねえ、ミウミウ?」


「成海(なるみ)、あんたはもっと真面目にやりなさいよ。有紀(あき)、あんたもね。」


「俺っちも皐月と同じで真面目にやってるけどなー。あ、なぁなぁ皐月〜、この前話してたゲーム・・・」


「今は実験に集中しろよ。」


班のメンバーは女2人、男2人の4人だ。比較的真面目な人2人、不真面目な人2人と言うなればバランスの良いグループではある。


なんやかんやでわちゃわちゃと実験を進める。


「皐月、私はこっちの溶液の準備するからガスバーナーに火をつけるのお願・・・ひっ!」


班メンバーの美雨が他の準備をしながら皐月に指示を飛ばしたが次の瞬間横を向いて固まっていた。


「わー。マウスじゃん。隣の教室、そういえば今日マウス実験してたよねえ。」


成海が美雨のみている方向を見てそう言うと美雨の顔はみるみる青ざめる。


「む、むりむりむり、私動物ほんっとダメなの!・・・いやあああ!こっち来る!」


マウスは美雨へ向かって一直線に走ってきた。美雨はマウスから逃れるため振り返る、その時手が瓶に当たって下に落ちた。


「あ!」


「美雨、落ちた瓶は触るな。・・・よっと。あれ、このマウスの目・・・」


皐月はマウスを上手く片手で捕まえるとジタバタするマウスを優しく、しかし離さないようにしっかり握った。手からこぼれ落ちそうになり咄嗟に長い尻尾を掴む。


「ありがと皐月・・・ってちょっと片手のマッチ火着いたままじゃない!!」


「あ、ほんとだ。どうしよ。・・・いっつ!!」


自分の尻尾をよじ登ったマウスは皐月の手を噛んだ。驚いた皐月は掴んでいた手を緩めマウスの逃亡を許してしまった。

ーーーと同時にもう片方の手に持っていたマッチが落下する。その赤い先端を静かに燃やしたまま。

その落下地点には不幸にも美雨が落として割った瓶の中身。アルコールが床一面に広がっていたのだ。


「離れて!!」


皐月たちの騒がしい様子にこちらを見ていた実験室中の生徒達が一気に青ざめる。


マッチの火と液面が触れ合った瞬間勢いよくでは無いがアルコールが広がった分青く紅い炎が静かに踊り立つ。


「えーと、えーと水はダメだし、消化器!誰か消化器持って来て!貴方たち近づいちゃダメよ!」


実験を監督していた先生がようやくこちらの様子に気づき指示を飛ばす。


「あ!マウスが。」


誰もが存在を忘れていたマウスの動きにグループの4人だけが気づいた。そのマウスは一直線に広がる炎の中へと走っていった。


「ダメだ!」


「皐月!危ない、仕方ないから放っておけ!」


皐月が手を伸ばすも有紀にとめられた。

女子2人が目を塞ぐ。皐月はやり切れない思いでそれを見つめた。

誰の静止も受けなかったマウスは炎の中へ真っ直ぐに飛び込みそのまま丸焼けにーー


「え・・・」


その光景に皐月は目を丸くする。


丸焼けになるかと思われたマウスは炎の中でじわじわとその姿を膨れ上がらせそのうち炎と一体になり天井近くまで燃え上がった。炎には凶暴な獣の様相が浮かび上がり地響きのような雄叫びをあげる。固まる人々を尻目にその炎が嗤うように火を不安定に揺らめかせると次の瞬間勢いよく燃え広がり実験室中を包み込んだ。


1番近くで飲み込まれた皐月は何が起こったのかわからずすぐに眩い光と炎に飲み込まれる。最後に頭に浮かんだのは。


ーーマウスの瞳と同じ妖しく光る紫の炎は今までの人生で見たどんな光景よりも美しかったということだけだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「・・・まぶ・・・しい・・・」


どれくらい気絶していたのだろうか。目を開けようとしても眩しくてなかなか開けることが出来ない。

やっと目が慣れてきた頃、それが太陽によるものだと気が付いた。そう、太陽だ。


「・・・?俺、確か学校の実験室・・・室内にいたよな。」


周りをゆっくりと見渡すと何も無い草原が広がっている。あの爆発で学校が吹き飛 んだということはあるまい。ここが死後の世界というやつか。はたまた夢を見ているのか。そうでなければ我ながらファンタジーな思考だとは思うが・・・


「あの爆発?で別世界に?」


自分の馬鹿な考えに思わず笑いがこぼれる。最近のマンガやアニメでよく見るやつだ。それが自分の身に?ありえない。化学の実験中に起きた非科学的な事態。

そんなのーー笑うしかないじゃないか。


まあマウスが炎に化けたように見えた時点で普通ではなかったが。



突然のことに頭の中は色々な考えが堂々巡りだ。みんなは無事だろうか。そんな心配と同時に罪悪感が湧き上がってくるあれはもともと自分がマッチを持ちっぱなしだったから起きた事態だ。俺のせいでどれくらいの奴が怪我をした。俺のせいでもしかしたら・・・。俺はもう死んでるのか?爆発が原因で転移したなら巻き込まれたみんなもこの世界に?


次々と考えが浮かびとても今すぐ納得できる答えを得られそうにはない。


「こんなとこにいても何もわからないよな。」


長いこと座って考え込んでいたから尻が痛い。

立ち上がって草をはらったあと、少々大袈裟に伸びをした。



「とりあえず、あっちだ!」



そう呟くと白衣を来たままの青年。――相田皐月はあてもなく歩き出した。

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