カーテンコール

若狭屋 真夏(九代目)

参考人 

白杖を持った探偵深山翼の姿はその日とあるホールの客席にいた。

彼女の趣味は演劇を見る事だ。もちろん彼女は目が見えない。しかし彼女に言わせれば「声こそが役者の姿だ」という。声の響き方からその人の身長や体が太っているか痩せているかわかるそうだ。

あまり迷惑になってしまわないようにまた帰るときわかりやすいようにいつも出口の近くの席を取ってもらう。実はこの舞台は深山の亡き友人で女優の山崎美香の恋人辻孝弘の脚本によるものだ。辻は東京からS県に引っ越した深山のために年に一度このホールで東京で話題の舞台をかける。

東京で人気の劇団が地方に出ることがめったにないのでいつも前売りは瞬間でうりきれてしまう

出入り口の近くで人の出入りが当然激しい彼女に向かって二人の男が近寄ってきた。

「あの、失礼します。わたくしS県警の大岡と申しますが深山翼さんでしょうか?」一人の男が翼に尋ねた。

「はい、?」

「あの。、もしかして。。」大岡は翼の手に白杖があることに気が付いた。

「はい、私が深山翼です。おかしいでしょ?目が見えないのに演劇なんて」翼がくすっと笑った。

「そ。そんなことないです」大きな声でいったのは大岡の部下の矢島だ。年は28歳になる。

大岡はそんな部下を横目に

「あの、ここでは人目が多いので場所を変えてお話ししたいことがあるのですが。。」

「はい、わかりました」といって深山はゆっくりと立ち上がる。

しかし少しよろける。大岡は矢島に目配せして翼をエスコートする。

舞台の楽屋まで案内されて翼はゆっくりと椅子に腰かけた。


「おい」と大岡がいうと矢島が楽屋の表に立って他人が入らないように見張っている


「あらためまして、私大岡圭司と申します」

「県警の刑事さんが私に何か御用でしょうか?」

「なんで刑事だとお分かりになりましたか?」

「だって大岡さん香水で必死にたばこのにおいを隠そうとしているので刑事さんかと。。。」

「いやはや、参りましたな。実は昨日娘に「若い女の子に会うんだから香水でもつけていけ」といわれまして。。。娘の彼氏から借りてつけたものですから。。。そんなににおいますか?たばこ」と大岡は服を嗅ぐ。

「いえ、気にしなくて結構ですよ」

大岡は我に返って翼に話しかけた。

「実は昨日夜脚本家の辻孝弘さんがお亡くなりになりました。」

「そう、ですか」翼の声が小さくなっていく

「今辻さんは今日の舞台のため止まっていた県内のホテルで心肺停止の状態で劇団員の方に発見されまして一応今司法解剖を行っております」

翼は頭を小さく下げた。

「事件と事故両方の可能性を調べて居るんですが深山さんがお知り合いだと伺ったものですから一応ご報告に。。。。」

大岡はそれだけ言って帰ろうと思っている。

「それでは。。」といって立ち上がった大岡に

「アリバイ、は聞かないんですか?」と翼が言った。

「え?」

「だから事件と事故の可能性があるんですよね?」

「は、、はい」

「私は真っ先に疑われても仕方ない存在です。」

「しかしあなたは。。。」といって止めた

「でも私がこんな状態だからですか?」

翼の言葉には芯の強さがあった。

「では任意でお話を伺っても大丈夫でしょうか?」

翼は頭を下げた。


大岡は矢島に車を劇場入り口近くに持ってこさせ翼を乗せた。

あくまでまだ事件ではないのでパトカーではなく普通車に乗って県警に向かっていった。

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