姉が美味しい

筋坊主

姉を食べて大学生活が始まる

「おはよう!」

朝起きると、姉が僕の上に馬乗りに乗っていた。

相変わらず短いが朝日に綺麗に輝く黒い髪、

それにグラビアアイドルと言っても通用するようなグラマラスな体だ。

思春期の僕からすると

とても悩ましい所だが

「姉ちゃん、いつも言ってるけど俺の上に乗っかるのは」

「だって、信ちゃんったら起きないんだもん。

それに、信ちゃんこうでもしないと

あと5分、あと5分って。」

姉が僕のベッドから降りながら

頬をふくらませる。

「それはそうだけど.......」

そもそも朝6時から起きる必要はないだろうけど。

と言いかけるが、そうもいかない。

姉はこれは譲らないらしく、

下宿で同じ部屋を取ってからは

どうしても早寝早起きを強制してくる。

「信ちゃんと一緒の大学なんだよ。」

ベッドから降りたかと思うと

またベッドの縁にストンと座る。

今日から僕は大学に通うことになるが、

ちょうど姉ちゃんとは大学が別だが、通学路は同じだ。

正確には姉ちゃんは大学院で、俺は大学なのだが。

昼飯は姉と食べることにされている。

昼は家族で食べないとダメ 

という姉の絶対に譲れない一線があるらしい。

「ていうか、姉ちゃん。

毎回思うんだがなんなんだよ、その格好は。」

「良いでしょ?友達がこれが似合うって。」

「確かに似合うよ、でも少しは自重してくれ。

何でよりによっても寝巻なのに透けてるんだよ!!」

スケスケどころの騒ぎではない、

姉のキメ細かい柔肌の質感が見えるほど、薄い布だ。

「だって、最近暑いし。」

「だったら裸で寝ればいいだろ。

俺はあっちの部屋には入らないし。」

「良いの?」

「ちょっ!ここで脱いでいいとは言ってない!

言ってないぞ!」

「だって暑いし。」

「だったら自分の部屋で脱いでくれ!」

何とか寝巻きを脱ぐ前に姉を部屋から追い出す。

全く、朝から姉のあんな全裸など見てしまったからには

一生トラウマになるだろう。

「朝ごはんできてるからね。」

「分かった、すぐ行く。」

僕はさっさと適当な上着を掴んで、部屋を出る。

「今日は?」

姉との共同生活最大のイベント、

それがこの朝食と、夕食である。

昼はいつも学食で食べるから問題はない。

「お姉ちゃんの腿肉。」

「それでなにかいうことは?」

「今日も私は弟に自分の体を食べさせようとしました。

ごめんなさい。」

見た目は確かに完璧なステーキだが、

中身は何を隠そう姉なのである。

以前、朝たまたま徹夜開けにキッチンに行くと、

姉が自分の足を切っては再生させていたのだ。

そう姉は

「私、美味しくない犬なのかな?」

落ち込んだ瞬間に姉の頭から耳がぴょこっと飛び出す。

そう、何を隠そう姉は犬娘なのである。

時はしばらく遡る。

さらにこの犬、いや姉ではあるんだが

彼女は超速再生能力を誇っている。

「あのな、大体俺が痛い思いして切った姉ちゃんの肉を

好き好んで食べれると思うか?」

「だって、小さい頃はあんなに美味しそうに食べてくれたのに。

覚えてる?

信ちゃんが15歳の誕生日の日に食べた

あの肉。」

「覚えてるよ。」

「だったもう大丈夫だよね?」

「いや、そんなこと言われても。」

「だってn=1の時に成り立ってるんだよ。

n=k、すなわち一昨日食べたら、

n=k+1昨日も食べてくれたでしょ?」

そんな帰納法があってたまるか!!

っていうか

「まさか!あのチキンステーキっぽいやつ、

姉ちゃんだったのか!!!」

一昨日も昨日も試験勉強をそこそこ頑張っていたせいで、

何となく出されたものを食べた気がする。

「だって、間違えて鶏肉の代わりに

牛肉買っちゃったから。」

「牛肉で良かったよ!!

牛肉でもタレ付けて焼いたら大体美味しいから!!!」

「だって.....」

「わ、分かった。食べれば良いんだろ。」

何回これやるんだろ。

はぁ、何で俺は姉の肉を食べてるんだよ。

でもこれ食べないと姉ちゃん泣くんだよな。

って、既に涙目になってるし。

「美味しい?」

姉が腕を閉じて上目遣いにこちらを見てくる。

「美味しいよ。」

不本意だが本当だ。

姉の肉は本当に美味しい。

味付けも姉の肉、

さっぱりと蛋白なそれに合わせて濃いめの味付け、

ウスターソース、ケチャップ、

それに何か良く分からないものをいっぱい入れてた気がする。

よく分からないが美味しいものは正義なのだ。

..........…

「ごちそうさま」

「ふふっ、お粗末様でした。」

「姉ちゃんの肉は全然粗末じゃないけどな。」

「ん?なにか言った?」

「なんでもない。早く行かないと遅れる。」

「もう、まだ講義開始まで1時間ぐらいあるよ。

お姉ちゃんのデザート食べる?」

「何が入ってるか分からない んっ。」

姉が食べ終わったばかりにの口になにかをねじ込んでくる。

「これお姉ちゃんのデザート。」

姉は美味しそうにもう片方の手の手で

白いなにかを食べている。

「なんだこれ?」

「お姉ちゃんのおっぱいだよ?」

「は?」

悪いが聞こえなかった。

「お姉ちゃんのおっぱいで生クリーム作ってみたの。」

「はぁ?」

確かにスポンジはどっかで買ってきたらしく、

普通のパサパサしたやつだ。

だが、このしっとりとした

脂質たっぷりのコクのあるクリーム。

「嫌だった?」

「嫌じゃないけど、どうやって」

母乳が出てるんだ?

「信ちゃんのエッチ、

変なこと想像した?」

「別に。」

どうせ姉の奇行は今に始まったことではない。

不思議と父さんと母さんにはバレてないが、

僕は知っているのだ。

「ていうか、姉ちゃんの料理、

意味わからないものばっか入れてるのに何でこんなに美味しいのかは

世界7大不思議に入るんじゃないのか。」

「大丈夫、私は信ちゃん以外にこんなことしないから。」

「それはそれで結婚した時困るような。」

「私、信ちゃんと結婚するもん。」

「だから、姉弟だと結婚出来ないんだって。」

「ふんっ、法律の解釈次第だもんね。」

いや、いくら姉が民法を専攻しているからと言って

流石に現在の法律を変えることは出来ないだろう 多分。

でも、今思えば、姉ちゃんは犬娘で、俺はただの人間。

実質血は繋がってないようなものだし、

その辺りをなし崩し的にされる可能性もなくはない。

そんな期待と不安を七三分けにしながら僕の大学生活が始まる。




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姉が美味しい 筋坊主 @musclepriest496

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