切望

雪崎綾乃

最後のチャイム

「でさー、めっちゃウケる~!」

「おい、お前借りパクすんなよ!最後に返せ!」

「持って来てねえよ!」

 ガヤガヤ、ザワザワよりもギャアギャアの方が相応しく表されるのではないか。

 そう思いながらも私は教壇に立つ。

「はい、帰りの……と言うか最後のHR始めます」

 全く、先程まで号泣していた姿は何処にあるのだろうか。最後の最後まで賑やかで終わらせるクラスなのか。私がどれだけ大変だったのか……この子達は分かっているのだろうか。隣のクラスから「うるさい」と怒られ、学年主任に怒られ、教頭から怒られ、更には保護者からも苦情があった。この1年間本当に大変だった。それをこの子達は「騒げていい思い出」なんて言うのだろうか。

「……卒業おめでとう。私は喋るのが上手くないから、黒板に書いていこうと思う」

 ああ、レンタルした袴を踏みそうだ。チョークで汚さないようにしなきゃ。

「せんせぇ……」

「最後に泣かすなよ……」

 黒板に書いた精一杯の想い。本当に色々あった。生徒指導に明け暮れ、保健室に通ったり、カウンセリングの先生と相談や今後のことについて話したりした。嫌な思いも沢山してきた。でも私もやっぱり思うのだ。

「こうして無事に全員を送り出せること、本当に本当に嬉しく思う」

 人と人との繋がりは思いやりが無ければ始まらない。良い方向には進まない。

 どうかそれをこの先生きていく中で大事にしてくれたら……私は初めて教師になって良かったと思えるだろう。

「5分前だからそろそろグラウンドに出ないと。副委員長、最後に号令かけて」

「起立!」

 ガタガタと椅子の音が鳴る。これも最後。今日はすすり泣く声も混じっている。

「先生、1年間ありがとうございました!」

 全員初めてきちんと頭を下げて揃った挨拶。

 委員長と副委員長か花束と紙袋を持って私の前に来た。

「先生、いつも一生懸命向き合ってくれてありがとうございました!」

 私の視界がぼやけた時に最後のチャイムが鳴った。

 これ程、最後なのが悲しいと思ったことは無い。どうか、もう5分だけ……。そう思ってしまうけれども、素敵な旅立ちをさせなければ。泣くのを堪えて笑顔で最後の声掛けを。

「皆並んで笑顔でね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

切望 雪崎綾乃 @Ayano_snow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ