折り鶴は飛んだのか?

わたなべ りえ

その1


 どんよりとした曇空を映し、湖は銀色に輝いていた。

 まるで鏡のように波一つない。

 私は、ただぼうっとたたずんでいた。

 湖面をかすかに覆う霧が、風景をこの世のものではない世界に変えていた。


 湖を渡って行く人影を見た。

 見たような気がした。


 三途の川。

 この先は、黄泉の世界。


 さみしがりやで、何をするにもどこへ行くにも、ハムコは私を誘ったっけ。


 ごめん。

 私はついて行けそうにない。

 この先は、いっちゃいけないところだから。


 でも……鶴は?

 折り鶴はついて行ったのだろうか? 


 私は、小さな石を拾って思いっきり投げた。

 石は水面を切って跳ぶこともなく、二つの小さな紋を残して水に沈んだ。


「さようなら……ハムコ」


 私の心に去来した思いは、悲しみだったのか?

 いや、虚しい……とでもいうのだろうか?


 不思議なくらい空っぽだった。

 空っぽすぎて……むしろ平安なくらいだった。

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