第2話 出会いの兆し

僕の名前は、佐藤詩。

小さい時から、「うたいちゃん」と呼ばれ、学校では、「女子かよー」と、からかわれてきた。でも、女の子じゃない!れっきとした男子!!である。


中学三年の時、友達がいないと言っても、過言ではなかった僕。

みんなが、「高校一緒だー!」とか、「さみしいよー!」とか、盛り上がっている時、ぼくは、「高校は、おんなじ中学の人がいたらいやだなー…」と思っていた。別に、この学校の人たちが嫌いなわけではないけれど、好きなわけでもない。どうせなら、誰も、僕のことを知らない所に行きたかった。やり直す!とか、青春するんだ!とか、明るくなりたい!とか。そんなつもりはさらさら無いけれど、一人でいたい。


結局、何をしても平凡の域を出なかった僕に、行ける高校は限られていて、特に学力や部活には何のこだわりもなく、家に一番近いところを選んだ。何の特色もない、普通の共学のところだけど、校則がうるさくないからわりと気に入ってる。


五月。


「なぁ、ウタ、今日みんなとカラオケいかね?」


入学当初、席が近かったため、少しだけ仲の良い、石崎に声をかけられた。


僕は普通よりもちょっと大人しい、影の薄めの平凡な学生。

他人が見れば、多分、目立たない、細々とした子、という風に見えるだろう。

だから、リア充系の、石崎たちとは、釣り合わないと思っている。


「なぁ、みんな、いいだろ?」


と石崎。


「う、うん、もちろんだよ!」


とうなずく石崎の仲間たち。

でも、もちろん、聞こえないように言ってるとは思うんだけど、石崎の仲間たちは、

「なんで誘うかな・・・、暗くなる。」とか、「よりによって佐藤かよ」とか言ってるから、行く気があっても行く気が失せる。そもそも、全く行くつもりはない。


「ああ、ゴメン、今日、用事あるから・・・。」


カバンを持って、逃げるようにその場を立ち去る。


「ほらぁ!!佐藤なんか来るわけねぇよ!行こうぜ石崎!」

「な、ちょ、おいウタぁ!」


遠ざかる教室からは、そんな声が聞こえてくるけど、僕の知ったことではない。

立ち止まることも、振り返ることも、戻ることもしない。


もちろん、用事があるなんてウソだ。だけど、仲良くしてくれる石崎に、嫌だとは言いづらい。

多分彼らは、女の子たちと待ち合わせをして、楽しくおしゃべりしながら、歌ったりするんだろう。


その空気の中に僕がいることは想像できない。どうせ僕が行っても、最初の方に歌えって言われて、拒んだらノリが悪い!って言われて、時々変に気を使われて、端っこの方でドリンク飲んで。挙句の果てには「割り勘なー!」って言われて、お金払って終わるだけだ。

「楽しい」って空気は感じられそうもない。だから僕は、その手のことにはなるべく参加しないようにしている。


校門を飛び出したら、そこは、いつもと変わらぬ帰り道。

景色も変わらないし、ウチはすぐそこ。徒歩で十分。

そんな道をとぼとぼ歩く。小さなため息。それを取り繕うようにおおきな深呼吸。

そこの角を曲がってまっすぐ行けば・・・。

ん?あいつら、なにやってんだ?


「・・から貸せよ!」

「いやだ、止めろ!」


本当は無視したかったけど、どうやら顔見知りが言い争ってるっぽいから、放っておけない。

近づくにつれ、声と顔が鮮明になる。

あれは、クラスメイトの天野怜君が、知らない男子生徒・・二人?に、絡まれてるっぽいな。


「そのスティックさえなければ!」

「ダメだ、これは!大切な物なんだ!」

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