地球滅亡5分前
しろねこ
さよなら、青い星。さよなら、僕の最愛の人。
5分後、地球が滅亡します。
それは、つい数秒前ニュース速報にて全世界に知らされた。
あっという間に全世界で話題になり、混乱が起きた。
しかし、僕はと言うと、ニュースを見てもなおのんびりと外を歩いていた。
今したいこと?やり残したこと?そんなのあるわけない。
昔から誰かと比べられ、劣等感で胸が張り裂けそうだった人生負け組の僕には、世界が、地球が滅びようが滅びまいが関係なかった。
「ただ、一つやり残したことと言えば、新作のゲームをプレイ出来なかったことかなぁ」
その程度だった。
「ハル君!?」
すたすた歩いていると、家の近くのコンビニ前で隣に住む幼馴染の母親に会った。
「こんにちは、おばさん」
「こんにちは、じゃなくて!こんなところで何してるの!」
「何って、家に帰ってるんですよ」
「そんなことしてる場合じゃないでしょ!早く逃げないと!」
「でもさ、逃げるって言ったってどこに行くんですか?どこにも逃げ場なんてないでしょう?」
「ッ……!」
おばさんは何も言えず固まってしまった。
「それでは、そろそろこの辺で。さよなら」
僕は固まったままのおばさんを置いてまた歩きだした。
ゴゴゴゴゴ……!
その時、東の方から耳をつんざく大きな音が聞こえてきた。
音がした方を見てみると、流石に僕でも驚いた。
「星だ……」
大きい。月なんて比べ物にならないほど。
やっぱりあのニュースは本当だったんだ……。
腕時計を見てみると、今の時刻は午後5時33分。
ニュースが流れたのが3分ほど前だから、残された時間はあと2分くらいだろう。
ぼーっと落ちてくる星を眺めていると、携帯がブルブルと震えた。
メールだ……誰からだろう?
送り主は……なつ……。
僕が小学生の時から片想いをしている女の子だ。
メールには、「中央公園に会いに来て」と書いてあった。
ここから中央公園までは1キロほど。
……めんどくせ……。
頭の中ではそう思っているはずなのに、体が反射的に動き出していた。
中央公園の噴水の近くに人影があった。
「なつ……ッ!」
僕は気がつけば声を出していた。
「ハル君……」
振り向いた顔は微笑んでいるようにも、泣いているようにも見えた。
僕はなつに向かって走り出した。
刹那──。
背中に突風が吹き付けた。
後ろを見てみると、星が地球にめり込んでいるのがわかった。
衝撃で2人の体が浮いた。
「なつ!」
僕は必死に手を伸ばす。
あと、数センチ……。
手と想いが届いたのは、街が崩れゆく頃だった。
「ねぇ、ハル君……。私ね……ずっと前からハル君のことが……好きでした」
……ああ。僕は人生負け組なんかじゃなかったんだ……。
どうしてそのことに早く気付かなかったんだろう。
本当の不幸とは、幸せだということに気付けないことなのかもしれないな……。
「僕も、好きでした」
自分の想いを伝えた時、なつの両目から一筋の涙が零れた。
それを見た瞬間、目の前が真っ黒に染まった。
西暦3472年、7月2日。地球は太陽系の星屑となった。
地球滅亡5分前 しろねこ @haru-same
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