青春と彼女と俺。
カズシ
青春とは
青春。
季節の「春」を示す言葉である。転じて、生涯において若く元気な時代、主に青年時代を指す言葉。
と、辞書などにはそう書かれている。
皆さんは青春とはどういうもので、どこにあるものなかご存知だろうか?
かの有名なライトノベル、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。の主人公、比企谷八幡の名言にこんな言葉がある。
青春とは嘘であり、悪である。
青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き自らを取り巻く環境
を肯定的にとらえる。
彼らは青春の二文字の前ならば、どんな一般的な解釈も社会通念も
捻じ曲げてみせる。
彼らにかかれば嘘も秘密も罪科も失敗さえも、青春のスパイスでし
かないのだ。
仮に失敗することが青春の証であるのなら友達作りに失敗した人間
もまた青春のド真ん中でなければおかしいではないか。
しかし、彼らはそれを認めないだろう。
すべては彼らのご都合主義でしかない。結論を言おう。
青春を楽しむ愚か者ども、
砕け散れ。
この言葉のように、青春とはさまざまな考え方があり、とても一言では説明し難いものなのだ。
その日、藤宮斗真は一人の少女に出会った。
土日が明け、ひたすらだるい一週間の始まりを告げる月曜日の放課後。
俺は一人、学校の屋上で特に意味もなく空を見て寝転がっていた。これは俺の日課のようなものだ。
俺の名前は藤宮斗真、豊崎高校に通うどこにでもいるただの高校二年生だと思っている。
ちなみに、俺は部活には入っておらず、そのうえ友達だっていない。
補足情報として、中学生時代、雑誌のモデルをやっていた。当時は長身イケメンモデルなんて言われ、プチ人気があったりなかったり。
友達がいない理由に関しては、ただ単に人と話すのが苦手なだけだ。
まあ、これらの情報から分かるように、俺は生粋のボッチなのだ!
こんなこと、胸張って言うようなことではないことは自分でも分かっている。なんていうか、一人で勝手にボケている感じだ。
しかし、今更、友達が欲しいなんては言わない。俺はただ、青春ってものはどういうもので、どこにあるものなのか知りたいのだ。
そんなことを日々思いながら、この退屈な生活を過ごしている。
「はあ、青春ってどういうもので、どこにあるんだ……」
俺は溜息と共にそんなことを口から漏らす。
「じゃあ、私が君の青春を探すの手伝ってあげよっか?」
「……っ⁉」
突然、声と共に俺の視界に少女の姿が現れた。
見た感じ、俺と同級生くらいで、身長はそこそこ高い。それに、なんてたって可愛い。
そんな彼女は無防備で、制服の間から少し谷間が見えていた。
俺は見て見ぬふりをしつつ、視線をそらした。
「あ、あの……誰ですか?」
「私は森崎朱音。君の救世主です!」
「は、はい」
「も~反応薄いな~」
彼女は少し不満そうに言った。
「俺は藤宮斗真です。高校二年生です」
「あ~先輩じゃなくて良かった~斗真くん、身長高いから先輩なのかと心配だったんだよね~」
「そ、それは良かったな」
「うん!あ、私のことは朱音でいいからね!」
「お、おう」
いきなり初対面の相手を呼び捨てとは、ボッチの俺としてはハードル高いな。
きっと、友達とか多いんだろうな……
い、言っておくが、別に羨ましいとかそういう訳では断じてない!
「斗真くんは青春を探しているんだっけ?」
「ま、まあ、そんな感じ」
「そっか。じゃあ、私と付き合おうよ」
「は、はあ?」
俺は思わず自分の耳を疑った。
何せ、初対面の女の子から告白を受けているこの状況、自分の耳を疑わなくてどうする。
「青春について知りたいんでしょ?だったら、私と付き合いましょ」
「い、言っている意味が分からないんだが……」
な、何言っているんだこいつ……俺と朱音って本当に初対面だよな?
「女の子と付き合うと青春について何か分かるかもよ?」
「そ、そうなのか?」
「うん!だから、私と付き合わない?」
「……」
「ちょっと、聞いている?」
こんな軽い感じで、俺の初めての彼女が朱音に決まっていいのか?
正直、彼女がいるってのは悪い気はしないし、何か青春って感じがしない訳ではない。しかし、俺は朱音と付き合うことによって、本当に青春を見つけることができるのだろうか?う~ん、上手く言えないが、本当にそれでいいのか?
「ねえってば、聞いている?」
「わ、悪い、考えごとをしていた」
「で、どうする?返事は?」
朱音は早く早くと俺を急かす。
「じゃ、じゃあ、お願いします……」
「了解!」
結局、何の根拠もないが、俺は朱音を信じてみることにした。まあ、何もしないよりはましだと思い。
「朱音、いくつか質問してもいいか?」
「うん、いいよ」
「何で、俺のためにここまでするんだ?」
「内緒。いつか来るべき時が来れば話すよ」
「何だよ、それ……じゃあ、クラスは?」
「それも内緒」
「はあ?それくらい教えてくれてもいいだろ?」
質問が成り立たない……
「まあ、すぐに分かるわ」
「そ、そうか」
何て言うか、最初の質問の答えといい、謎の多いやつだな。
それからも俺は簡単な質問をしたが、内緒が多かった。答えてくれたのは、生年月日と好きな食べ物、趣味など簡単な情報だけだ。
その後、俺は朱音に一緒に帰るように誘ったが、彼女はもう少し屋上にいるといい、俺は一人、学校を後にした。
それにしても、俺にもついに彼女?ができたか。
何か、上辺だけの関係だし、素直には喜べないんだよな……
それにどっちかというと、知り合い以上友達未満の関係だし。
これから先、一体どうなるんだろう……
翌日、俺は学校中を探したが、朱音の姿はなかった。
ちなみに、初対面の人と話すなんてとても無理なので、聞き込みはしなかった。
一体、どういうことなんだ?
この時から俺は森崎朱音という人物に疑問を抱き始めた。
そして、放課後。俺はいつも通り屋上に向かう。
ドアを開けると、屋上で朱音が待っていた。
「やあ、斗真くん。待っていたよ」
「朱音……」
「どうしたの?不思議そうな顔をして」
「今日、学校で朱音のことを探したよ」
「そっか。見つかった?」
「見つからなかったよ。お前って一体――」
「内緒」
朱音が人差し指で俺の口を押さえる。
「またそれかよ……」
「ごめんね」
朱音がどこか悲しそうな顔をして言った。
この時、俺はあまり朱音のことを詮索しない方が良い気がした。なぜなら、彼女を失いそうな気がしたからだ。
そして、俺は聞いた。
「俺はいつになったら、青春について知り、見つけることができるんだ?」
「それは斗真くん次第かな」
朱音はそう言って笑った。
「俺次第か……」
なかなか長い道のりになりそうだ。
その後は、たわいのない世間話などをして、時間が過ぎた。
その日も朱音は一緒に帰ることはなく、一人、屋上に残った。
俺は深く詮索することなく、学校を後にした。
それから一週間が経った頃。
俺は朱音に対して少しずつ疑問が増えているのを感じていた。
もしかしたら、今日まで気付かぬふりをしていたのかも知れない。けれど、以前より疑問を抱いていることは確かだ。
そして、俺は意を決して朱音に聞くことにした。
放課後、俺はいつも通り屋上に向かう。
そして、ドアを開ければ朱音がいる。いつもと変わらない状況。
「やあ、斗真くん。待っていたよ」
「おう」
正直、朱音に自分の疑問をぶつけるのは怖かった。
けれど、行動しなければ何も始まらない。そう自分に何度も言い聞かせた。
これは、俺が朱音と出会ってから俺なりに考えた青春への一歩のようなものかも知れない。
「どうしたの、斗真くん?何か考えごと?」
「ああ、そんな感じだ。朱音」
「何?」
「どうして俺は放課後にしか朱音と会えないんだ?」
「……」
朱音は黙ったままだ。
その場には重い空気が漂う……
「……朱音」
「やっぱり、気付いちゃったか」
朱音がそう言って笑う。
その様子はどこか悲しそうで、後ろめたささえ感じた。
「でも、どうして――」
「それは内緒。斗真くんが全部分かったら、話すよ」
あの日と同じように、朱音は人差し指で俺の口を押さえた。
「そっか」
俺はそれ以上、朱音には何も聞かなかった。
その日は特に何も話すことはなく、俺は屋上を後にした。
朱音への疑問を抱いたまま……
翌日の昼休憩、俺は職員室にいた。
「すいません、突然」
「別にかまわないよ。それにしても成績優秀な藤宮から質問なんて随分と珍しいな」
「ありがとうございます。実は、勉強のことではないんです」
俺は朱音のことを知るため、担任に聞くことにしたのだ。
朱音が豊崎学校の制服を着ていた以上、ここの生徒であることは間違いない。
「そうか。それで、要件は?」
先生は少し残念そうに言った。
「あの一人の生徒について知りたいんですが、二年生に森崎朱音という生徒はいますか?」
「森崎朱音?ちょっと待ってくれよ」
先生が名簿を見て調べる。
「藤宮、悪いがうちの学校にはそんな生徒はいないぞ?」
「そ、そうですか……」
思っていた通りだな……何となくだがそんな気はしていた。
学校中を探したあの日にもう答えは出ていたのだ……
「本当にその子はうちの生徒なのか?」
「どうやら、僕の勘違いだったのかもしれません。先生、わざわざありがとうございました」
「そ、そうか。まあ、これからも困ったことがあれば、いつでも先生を頼りなさい」
「はい」
そう言って、職員室を後にした。
とりあえず、朱音はこの学校の生徒ではないことは分かったが、まだ正体までは分からないな……
そもそも、森崎朱音という人物はこの世界に存在するのか?確かに、俺はいつも放課後に朱音と会っているが、彼女は生きているとは保証できない。それに、放課後にしか会えないってのも気がかりだ。
もしかして、幽霊?いや、そんなはずは……だって、ちゃんと足まであったし、透けてなかってし……って何考えているんだ俺は!そもそも、幽霊がこの世界に存在する訳がないだろ!
う~ん、考えれば考えるほど、分からなくなってくるな……
多分、出てこないと思うけど、ネットで名前を検索すれば出てくるかも?
俺はダメ元で検索してみることにした。
「……っ⁉」
俺は思わず言葉を失った……
検索をすると、トップに女子高校生交通事故で死亡という記事が出てきた。そして、女子高校生の名前は森崎朱音とあった。
それに、森崎朱音が交通事故にあったのは、俺と出会う三日前のことだった。
俺は何度も自分の目を疑ったが、それは事実だった。
じゃあ、本当に朱音は幽霊なのか?
だとしたら、どうして俺の元に?
俺の中に新たな疑問が生まれるのだった……
放課後、俺はいつも通り屋上にいた。
もちろん、そこには朱音もいる。
「斗真くん、その顔。ついに全部分かったんだね」
朱音はどこか悲しそうな様子だった。
「ああ。朱音、いくつか質問していいか?」
「うん」
「朱音は交通事故で死んだんだよな」
「うん」
「どうして、俺の元に現れたんだ?」
「私、斗真くんこと好きだったんだ」
「……え?」
いきなりの告白に驚きを隠せない俺。
「斗真くんは気付いていないと思うけど、私、小学校から中学校まで一緒の学校だったんだよ。そして、ずっと好きだった……」
朱音は懐かしむように言った。
「そ、そうだったのか。気付かなくてごめん……」
「仕方がないよ。小学校の頃はあまり面識なかったし、中学校の頃は斗真くん、モデルの仕事とかであまり学校に来ることあかったから」
朱音は俺を責めることなく、優しく言った。
そんな朱音に申し訳なさだけが只々積もる。
「そっか。じゃあ、どうして俺なんかのことを好きになったんだ?」
「実は私、小学校に入って初めて話したのは斗真くんなんだ。引っ越ししたばかりの私は友達がいなくて、一人でいたところを斗真くんは優しく話かけてくれて、友達になろうって言ってくれた。それからはちょくちょく話すようになって、私は斗真くんのことを好きになった。本当は高校も同じところに通いたかったんだけど、お父さんの仕事の都合で引っ越しすることになって、ダメだったんだ……」
そうか、だから豊崎高校の制服を着ていたのか……
「ごめん……本当にごめん……」
「ど、どうして謝るの?わ、私は斗真くんのこと好きになれて幸せだったよ。きっと、神様がそんな私にご褒美をくれたんだよ。天国に行く前に斗真くんに会わせてくれるっていうご褒美……」
朱音は涙をこぼして言った。
俺はそんな朱音を優しく抱いた。
朱音の体は体温させ感じることができず、肌の感触も感じることができなかった……
「私は幸せだな~最後は好きな人の胸の中で天国に行けて……さようなら、斗真くん」
「朱音――」
その瞬間、俺の目の前から朱音は消えた……
その日以降、俺は学校にあまり行かなくなった。
俺は学校に行く意味を見失っていた……
そう、いつの間にか、俺の学校に行く理由は朱音となっていたのだ。
彼女は間違いなく、俺の退屈な日常を変えてくれた。
放課後にしか会えない彼女はいつも屋上で俺を待っていてくれて、楽しませてくれた。そして、いつしか知り合い以上友達未満から友達以上恋人未満になっていたのかもしれない……実際は恋人同士の関係なのにおかしな話だ。
しかし、彼女はもう放課後の屋上にはいない……
例え、彼女は死んでいたかもしれないけど、確かに俺の目の前にいたんだ。いつも元気に笑い、俺までも笑顔にさせてくれる。
そんな彼女にもう一度会いたい……そんな気持ちだけが日々大きくなっていく。
ある日の放課後、俺は屋上に行った。
いないことは知っているのに、何故か朱音がいる気がしたんだ……
しかし、そこには朱音の姿はない……
一体、何を期待したのだろうか……
俺は寝転がり、空を見た。
久しぶりの光景に、少し懐かしく感じた。
「何でいなくなったんだよ……俺はまだ青春について何も分からないし、見つけることもできていない!一緒に探すって言ってたじゃねぇーか!だから、勝手にいなくなるなよ!」
俺は思った、過去に戻れるなら、朱音を助けたい!
そう強く思った。
すると、あたりがパーっと光に包まれた――
「……ここは?」
屋上にいたつもりがどこか知らない場所にいた。
確実に分かるのはここが日本だということだけだ。
俺は近くを散策していると、俺の目に見覚えのある姿が映った。
「……朱音」
俺はすぐさまにスマホを確認した。
思った通り、今日の日付は俺と朱音が出会った三日前になっていた。つまり、俺は過去にタイムリープをしたのだ。
俺は自分の頬を何度も抓り、確認した。
「夢じゃない!」
そうとなれば、何としても朱音の交通事故を阻止しなければならない。
俺は朱音を追いかけた。
確か、朱音が交通事故にあったのはこのさきの道だったな。ネットで検索した時に出てきた周辺であることは何となくだが分かった。
やばい、もうすぐ交通事故にあった道だ!今から走ったとしても、確実に間に合わないし、一体どうすれば……
「せっかく、ここまで来たのに……そうだ!名前を叫べば朱音は立ち止まるかもしれない!絶対に阻止してみせる!」
俺は口から思い切り空気を吸い、叫んだ。
「森崎朱音ぇぇぇぇ――‼」
道行く人は立ち止まり、俺を見る。きっと、変なやつだとか思われているんだろうな……
「頼む……止まってくれ……」
すると、俺の声が届いたのか、朱音は立ち止まり振りむいた。
これで、交通事故は阻止されたはずだ……
俺は気が抜けて、その場で倒れた。
その瞬間、再びあたりがパーっと光に包まれた。
気が付くと、俺は屋上で寝転がっていた。
「成功したのか?」
屋上には朱音の姿は見られなかった。
俺はすぐにネットで森崎朱音の名前を検索した。
「良かった……」
俺は思わず感嘆の声が漏れた。
検索したところ、森崎朱音について何も出てこなかった。どうやら、俺は交通事故を阻止することができたようだ。
それから一週間が経った。
あの日以降、生活は特に変わっていない。
唯一、変わったとしたら、学校に行くようになったことかな。
学校に行けば、もう一度、朱音に会えるような気がしてならないのだ。
変わっていない点で言うと、相変わらず、部活には入っておらず、そのうえ友達だっていない。
そして、放課後。
俺は屋上で特に意味もなく空を見て寝転がっていた。
青春とはどういうもで、どこにあるのかと思いながら。
「はあ、青春ってどういうもので、どこにあるんだ……」
あの日と同じようにそんなことを溜息と共に口から漏らした。
何か懐かしいな……朱音と初めて出会った、いや再会したのが随分と昔のように感じる。
今にも聞こえてきそうだ、「じゃあ、私が君の青春を探すの手伝ってあげよっか?」というセリフが朱音の声と共に……
「じゃあ、私が君の青春を探すの手伝ってあげよっか?」
突然、声と共に俺の視界に少女の姿が現れた。
俺はその瞬間、自然と涙がこぼれた。
そうだこの声だ……どこか優しくて、俺の退屈な日々を変えてくれそうな。
俺は立ち上がり、何も言わず少女を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと斗真くん⁉」
「良かった……本当に良かった……もうどこにも行かせないし、離さない」
「斗真くん……」
彼女は俺の頭を優しく撫でる。
「私もどこにも行かないし、斗真くんから絶対に離れなない」
「俺は本当に朱音を救えたんだな。おまえを抱きしめた時、改めて実感したよ」
「うん。何故か分からないけど、急に私の知らない記憶が頭に入ってきて、私は斗真くんのおかげで今を生きているんだなって知ったんだよ。本当にありがとう。でも、どうして私を助けたの?私は本当なら死んでいて、それこそが本来の世界だったんだよ?」
「本来の世界とかそんなことはどうでもいいんだよ。ただ、一緒に青春を探すっていう約束が果たされていないからな」
「そういえば、そうだったね。多分、私は斗真くんと一緒にいたくてそんな約束をしたと思う」
「あの約束、その場しのぎで考えた約束だったのかよ。それにあんなこと言われたら、誰だって過去にタイムリープしたいって思うよ」
「……っ⁉」
朱音が顔を真っ赤にする。
「あんな告白されたらな」
「お、思い出さなくていいから!」
朱音が顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言う。
「俺もまさか本当に過去にタイムリープできるなんて思ってもいなかったよ。それに、朱音の交通事故を阻止したことで世界線っていうのか?それはどのように変わったんだ?」
つまり俺が今いる世界は朱音が死んでいる世界がα線の世界とすれば、β線の世界となるのか。
昔、読んだ本にタイムリープについてこのようなことが書かれていた気がする。
まあ、そんな難しい話は置いといて、何より、朱音を救えて良かった……
「う~ん、どう影響されているのかは分からないけど、私、豊崎高校に転校することになりました!」
「それはすごいな……いくらなんでも、世界線が変わり過ぎだろ」
「まあ、私としては都合がいいんだけどね~」
朱音が嬉しそうに言った。
そういえば、告白の時に俺と同じ学校に通いたかったって言っていたもんな。
「じゃあ、約束の続きを始めるか!」
「うん!」
まあ実際、その場しのぎの約束だけあって、青春についてほとんど理解した記憶がないな。だから、続きというより、初めからやり直すの方が合っているだろう。
「なあ、朱音。俺、朱音に伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
「どうしたの急に?」
「そうだな。どうやら俺、朱音に恋をしたみたいだ。世界線とかそんなややこしものの影響ではなく、俺は屋上で再会した時から、朱音に恋をしていたのかも知れないな」
「……そっか。わ、私、生きていて本当に良かった……」
朱音は涙を流し始めた。
ぽつりぽつりと涙が地面に落ちる。
「朱音、俺と付き合ってくれ」
俺は朱音の涙を指で拭って言った。
「はい、よろしくお願いします」
そして、俺と朱音は優しく唇を重ねた――
青春とはどういうもので、どこにあるのか。
それは誰も知らない。
しかし、青春とは気付かぬうちに、もう自分が手にしているものなのかも知れない……
もしかしたら、俺は朱音と再会した時にすでに青春を手にしていたのかも知れないな。
俺と朱音の約束の続き……いや、青春のストーリーが新たに始まるのだった。
青春と彼女と俺。 カズシ @kazushi12514
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