第8話 (最終話)

「これなら勝てそうじゃねぇか」


そう1人つぶやいた少年が見たのは、


「そりゃっ!」

「ガアアッ!」


その身長の何倍もある龍と互角に戦う少女の姿だった。


「うう〜りゃあっ!」


土竜の前足を剣で受け止めると、そのまま跳ね上げる。

一瞬沈んで重心を落とすと、地を強く蹴って跳躍。

土竜の懐(広すぎてどっからどこまでかはよくわからない)に飛び込むと、その腹から尾までを一直線に切り裂いた。


「ギャアアアッ!」


たまらず叫ぶ土竜。


「あの鱗の装甲を一発で!?」


驚く少年と対照的に冷静に少女は次の一撃へー


「つっ!?」


龍が飛翔。

巻き起こった突風が少女を吹き飛ばした。

転がる少女。


転がって、転がって…ころころころ…


「お?なんかこっちに来てるような…?」


ころころごろごろごろごろっ!!


「うおおおっ!?」


慌てて回避したアインの横を猛スピードで転がっていくローリングガール。

それはもう少し転がったところで止まって、


「チッ!惜しい!」


ーボウリングの球が喋った!?


「っておい!あぶねえな!もうちょっとでお前消えてたぞ!?」

「あーアイン来てたんだー(棒)。おっそーい!」

「いや絶対気づいてただろ!?ーお前、一体どうなってるんだ!?」

「フィオナちゃん、覚醒しちゃいました〜!」


フンスと鼻を鳴らして、ドヤ顔で胸を張る少女に、


「……」


無言の少年。


「もう!そこは素直に褒めてくださいよ!それにほら!羽もはえちゃいました〜!」


くるりと回った少女の背中で、ミニチュアサイズのドラゴンそっくりの羽がパタパタと動く。


「かわいいでしょ!?」

「……」

「かわいいでしょ?」

「いや、お前にその羽だとかわいいと言うより悪魔ー」

「かわいいですよね?」

「あーうん、かわいー(迫真)」


と、


「んにゃっ!?」

「ぐっ!!」


さっきまで上空を滑空していた土竜が急降下。2人に襲いかかった。(まあ、こんだけ隙があれば狙いどきでしょうね)

が、その鋭い爪も空を切るだけ。


「グルル…」


土竜は再び上空へ。

うなり声と共にこちらをにらみつけている。


「おいおい、こりゃあちょいと厄介じゃないか?」


起き上がって剣をかまえたアインの頬を汗が伝ってー


ぽんぽん、


「ん?」


肩を叩かれ振り返ったアインの前にいたのは、


「まあまあ、アインさん。ここは私に任せなさい!」


ここで再び登場、ドヤガール・フィオナ。


「とうっ!」


跳躍。


「飛んだっ!?」


その背中の羽で、フィオナが空を駆ける。

そのスピードは、ドラゴンにも負けないほど。


「そりゃああっ!」


そのまま突っ込んでー


ぱいーんっ!


「おうっ!?」


叩き落とされました。


ズドンっ!


地面にめり込んだフィオナのもとに、駆け寄るアイン。


「おい!大丈夫か!?」

「うにゅう…」


地面からフィオナが這い出して来ました。


ーこいつ…なんて防御力なんだ!?


その服からさらさらと砂がこぼれ落ちてー


「お、お前!傷は!?」

「直した。」

「……」

「そんなことより!アイン!手を貸して!」

「…了解!」


再び飛び上がるフィオナに、アインは振り向いて土竜と向き合うと、


「今度の相手は、俺だ!」


そう叫んで跳躍。

すかさず土竜の前足が襲いかかる。が、


「遅いな。」


回避。

少年の体が揺らいで、土竜の爪が切り裂いたのはその残像だけ。

バランスを崩した土竜の体がかしぎ、すかさずアインが一撃を打ち込む。


「…っ!流石に硬いな…」


刃がほとんど通らない。

しかも。


「そんなにすぐ回復されたんじゃあ、戦いがいもないよなぁ」


土竜の体から剥がれ落ちる砂。


「まあ、それでも別に構わないんだがな」


アインは、上空でチャンスを伺いながら滑空するフィオナを見上げると、


「お前は、俺だけ見てろ!」

「グラアアッ!」


アインのセリフに、これはもう、土竜はアインのことしか考えられないようで。

同時に両豪腕がアインを叩き潰さんと迫るー


「ふんっ」


消失する両腕。


「ギャアアッ!」


あまりの痛みのためか、土竜が咆哮と共にその巨体をのけぞらせてー


「今だ!!」


アインが叫ぶのと同時に、フィオナがその背後から首元目掛けて急降下。


ー今あいつは両手が使えない!これはー


「勝ったな。」

「もらったーーー!」


2人が勝利を確信したその時。

ぐるりと頭を回した、その目がフィオナを捉えて、


「まずっ…!!」


その口元が紅に輝く。


「ドラゴンブレスっ!?」


迫る龍頭。


ー避ける?…この距離じゃ間に合わなー


その時。

何かが空気を切りさいて、その目玉を貫いた。

衝撃で狙いがわずかに逸れる。

灼熱の炎がフィオナの真横をかすめていく。

それでも少女は止まらない。

両手に握りしめた剣を上段に構えると、


「うおりゃああっ!」


一気に振り下ろした。



首の落ちた巨体が、徐々に光の粒子となって空に登って消えていく。


「やったな。」


前に立っていた小さな影が振り返って微笑んだ。


「そういや、なんで急にあんなに強くなったんだ?」


不思議そうなアインに、


「ああ、はい、これですよ」


私はライセンスカードを差し出した。


<平均(アベレージ)>

自分と、任意の生物1体のステータス(装備に要増加分は含まない)を平均して同じにする。もしどちらかに飛翔・潜水などの固有ぬ力があった場合、どちらもそれを有するようにする。1日一回効果は30分。


「これはなかなか…チートだな」


顔を上げたアインは苦笑い。


「あなた達には言われたくありませんよ〜」

「ま、それもそうだな…お前らしくて良いんじゃないか?…ほれっ」

「あっ!?ちょっ!投げないでください!」


私は慌ててライセンスカードを拾い上げると、立ち上がる。


確かに、このスキルは自分でも強いと思う。

だけど。

力が均衡していたら、自分1人では勝つことはできない。

でも、仲間がいればー


「これからも、よろしくお願いします!」


私は、すでに歩き出した背中を追って駆け出した。


最後に。


「やっぱり、平均が最高!」



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