シノビーツナイトコア AW:RIMIX

駿河ドルチェ

アヴァルシス王国騒乱

序ノ章


「もうすぐだ千景ちかげ準備しろ!」


 ギルドマスターの罠罠わなわなが、ラストアタックで体力を削り切る役目の千景に声を掛けた。


 新マップの最奥のボスである、第六天魔王ノブナガが召喚してきた眷属けんぞく呪詛翁じゅそおきなが高らかに歌いあげる、呪詛詩吟じゅそしぎん久遠眠歌くおんみんか』を紅鹿蔵くいれないしかぞうが『金城結界』で防ぐ、呪詛翁じゅそおきなが出現するようになるのは、ノブナガの残りヒットポイントが5%を切ってきたという合図でもあり、それを見た罠罠は、今回はいつもとは違うという手ごたえを感じていた。


 いつもは、術や技能を使い切った状態で突入していた呪詛翁からの一連の流れ。毎回この辺りから脱落者が出て、戦線を維持できず崩壊していたが、今回は違う、余力を残したまま迎え撃つことが出来ている。


 もうすぐ最難関ダンジョンのネノクニ最下層にある無間安土城むげんあづちじょうの本丸攻略まで後一歩というところまで来ている。そういった雰囲気が、討伐に参加しているギルドメンバー三十五人全員が共有していた。 

 

 お互いの邪魔にならないように呪詛翁を一体、一体、釣り役が誘導して担当メンバーが的確に処理をしていく、その間にノブナガ本体にも、隙間を縫うようにダメージを与える。


 苦悶くもんの表情を浮かべたノブナガが最終段階の攻撃に移行した。


 ノブナガの衣装が濃い紫色の着物に変化し、呪詛じゅその言葉が刻まれた黒い球が、その周りに浮き出てくる。この最終段階にきて一つ一つがボス級の強さを持つその黒い球の対応に、何度となく苦しめられて来た。そしてノブナガ本体は最後の禁忌詠唱きんきえいしょうに入った。


 ノブナガが、禁忌詠唱を発動させると本丸内に存在する全プレイヤーは強制即死を食らう、最後の関門、数人が生き延びていたとしても無慈悲に幕は下ろされる。千景はこれを発動させないために、大技である水遁系最高の忍術『爆水遁絶海水域ぜっかいすいいきの術』を発動した。 


 高圧線の鉄塔のようにそびえ立つノブナガの巨体が、千景の最高位忍術から生み出される大量の海水に飲み込まれていく。


 ノブナガの口にまで達した海水が、詠唱している口の動きを止め、詠唱の強制ストップがかかり「今だ! 一気に押し切れ!」誰ともなく言った声が聞こえる。『狂剣きょうけん戌神爪爪いぬがみそうそう』『超爆遁オロチ玉の術』『憑依口寄せ月天カグヤ』瀕死のノブナガに対して、ギルドメンバーが持っている高火力スキルが乱れ飛ぶ、そして最後に『桜花一閃神滅』千景が叫び、桜の花びらのエフェクトが大量に舞い散る中、首を撫で切りにしてついにノブナガはその巨体を揺らしながら床へと倒れた。

 

 ノブナガが倒れた衝撃によって本丸全体が軽く揺れ地響きがなった。その後、ボスモンスターを討伐した時に鳴るBGMが部屋のどこからともなく流れてくる。どうやら今回のBGMは新曲らしかった。その後のノブナガの巨体は、大きな煙に巻かれて、その巨体に見合うだけの、モンスターを倒した時に出る、素材情報やドロップ情報が詰まった『賢石けんせき』と呼ばれる、中央に桃色の発光体がある青いガラス石が出現した。


 その瞬間に、大きな歓声が沸き起こった。次いで、ギルドメンバーが持ち込んでいた色とりどりの花火が次々と打ち上げられる。ギルド『空前絶後くうぜんぜつご』が新規攻略を達成した時に行われる、恒例こうれいの大花火大会が行われた。


 ラストアタックをした千景のイベントリには、大量のアイテムがなだれこんできた。中には今まで、目にしたことがない名称のアイテムもあった。ノブナガ討伐はゲーム内でも今回が初めてであり、千景が見たこともないということは、このゲーム内では現状、今入手した分だけしか存在していないということを意味していた。


 ギルドメンバー三十五人、全員にその情報は開示されているので、それを見た回復役であった消滅しょうめつたんが「さすが新マップのボスうますぎるでしょー! うますぎるやろー!」と興奮気味に言った。タンク役であった祟り神たたりがみ火車かしゃは、他のメンバーよりも若干へこみ気味で「ちょっと僕今日死に過ぎでしたね…」と周りのテンションとは明らかに違い、責任感が強い分へこんでいたが、それを、ギルドマスターである罠罠わなわなの兄弟の犬犬いぬいぬが「倒せればなんでもいいっしょー! デスぺナ戻すの付き合ったるしー!」と明るく声を掛けてフォローしていた。


 千景はそんなギルドメンバー達の様子を横目に、分配のためにイベントリにある情報を確認しようとしたときにあることに気付いた。称号の欄のところに新規取得を示す、アイコンの点滅が見て取れた。


「あれなんか新しい称号増えてる『第六天魔王』っていうのが」


 しかし他のプレイヤーにはその称号は貰えていなかったらしく「えー千景だけずるい、あたしは貰ってないよ」と呪術攻撃担当であった絵霧えむが千景が手に持っているプレイヤー操作キーを覗き込みながら言った。


「千景だけがその称号を取れたって言うことは、ラストアタック取るか、累積るいせきダメージ最大を記録したプレイヤーか、一撃最大ダメージを出すか、こんなところかなあ千景の役割から推測すいそくできる称号取得条件」と罠罠も近寄ってきた。


「えーじゃあ回復役のあたしじゃ、一生無理じゃんその称号取るの」消滅たんが言った。


「まっノブナガはソロクリア絶対無理だし、千景がその称号付けてるだけで『空前絶後』の株がまた更にあがって、他のギルドにどや顔出来るわ」


「絶対『Q衆きゅうしゅう』の修羅川羅刹しゅらかわらせつは悔しがるな」


「マジうざいんだけどQのやつら、あたしが後衛職だからって狙い過ぎなんだよ、ストーカーかよ」絵霧えむわめいている。


「ちょっとつけてみろよ千景」罠罠が千景に称号を付けるように促す。そして千景は促されるままに称号を付けてみた。


「第六天魔王千景ってかあ、かっこいいねー」


「これじゃあ千景が魔王みたいね」


「まあ実際そうだろ、このゲーム『倭国神奏戦華わこくしんそうせんか』最強の忍者なんだから」


「あれ、千景?」話している途中に千景が、談笑だんしょうしていた輪の中から忽然こつぜんと姿を消した。『実存照鏡じつぞんしょうきょう』と唱え透過系能力とうかけいのうりょくを無効化させる鏡を出しても辺りには隠れている存在は見当たらない。


「ど、どういうことだ、本丸は、帰還も出来ないし、ログアウトも受け付けないから、強制的に電源を落としたとしてもキャラは残るはずなのに……流石に千景がドロップ持ち逃げとか考えられないしなあ」


「まだネノクニは実装されたばかりの新マップだし、あの称号を付けるとバグるとかあるんじゃないの、前もあったじゃん、新しい島が実装された時、大人数で上陸しようとするとみんな強制ログアウトさせられるやつ、このゲーム容量でか過ぎてSE殺しだし」


「しかも今連休中で、深夜のGMコール不可時間帯だからなあ、どうしようもうねえ」


「そうだなあ、ギルド情報もパーティー情報にも千景がログアウトしてるアイコンになってるしバグかこりゃ、じゃまあ分配は後日で! 千景以外のドロップアイテムは俺が集めるわ、で帰ってきたらこの責任取ってもらう形で分配全部あいつにやってもらお」罠罠が言った。そして「今日はもう2時超えてるから、俺寝ないとだから解散!」と言ってゾロゾロと『空前絶後』のメンバーは、本拠地の城に戻り各々ログアウトしていった。 

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