第26話


 幸先が良いと言うべきか、開幕早々三匹の四足歩行獣型の魔物が飛び込んでくる。恐らく魔犬。


 俺はすかさず不如帰を顕現させると、一太刀で全て斬り伏せた。同時に獣は灰と化すると、紫の結晶、魔鉱石を三個落とす。


 魔物に関しては自らを鍛えるために散々相手にしてきた経験がある。これくらいの敵なら朝飯前だ。


 それより魔鉱石を回収しなくてはいけないので腕輪のおうとつを押す。これだけは競技の勝敗を決める要素なのでしっかりと覚えてきたから大丈夫だと思うけど……。

 少しすると、腕輪にはめ込まれた宝石が紫の光を放ち、魔鉱石が中に吸い込まれる。ほんとよくこんな薄っぺらいところに魔鉱石入るな……。


 この魔法具には地図とそこから自分の位置を確かめられる力、魔鉱石を回収する力にどれくらい溜まったから数値化してくれる力があるらしい。一体中身がどうなってるのか、甚だ疑問だ。


『ファーストアタックはこの学院唯一の弥国人ルーキー、クロヤシラヌイ! ボーナス5pt!』


 突然声が響き名前が呼ばれたので焦るが、またしても建っている機械マキナから聞こえたの声と気づきホッとする。


 今ファーストアタックがどうのボーナスがどうのとか言ってたな。

 一体どういう意味かと考えると、そう言えばエミリー先生が最初の寮生会議で、他にも色々とポイントがもらえる条件が云々と言っていたことを思い出す。


 どこから見ているのかは知らないが、俺の動きは学院側に監視されて、何かをすればボーナスポイントを得られる事があるらしい。5ポイントであっても二回で二桁になる数字だ。馬鹿にはできないだろう。


『おっと、ここでフラミィエネルケイアが十体同時討伐を成し遂げた! 暫定トップ三百グラムの彼女だ!』


 どうやら石の重量まである程度把握されているらしい。恐らくこの魔法具に何か細工が仕掛けられているのだろうが、まぁそれはいい。フラミィもフラミィで暴れているみたいだ。俺もなんとか頑張らないと。


 しばらく山の中を巡っていると、道中小型の魔物を五体討伐し、魔鉱石を手に入れた。


 収納し、腕輪のおうとつをいじくれば、240gという数字が浮かび上がる。暫定的な自分の石の重さだ。だいたい小型の魔物の魔鉱石は三十グラムと言ったところか。


 さて次に行くかと周りを見渡すと、突如轟音と共に地響きが鳴る。

 何事かと音のした方向へ目を向けると、アナウンスが聞こえる。


『おっと、大型魔物の出現を複数確認しました、これより地図に位置情報を転送します! なおこの魔物が落とす魔鉱石は特大サイズの五百グラム!』


 五百グラムと言えば小型の魔物何匹分だろうか? かなり大きい数値だ。

 でもだからと言ってここですぐ動くのは軽率というものだろう。何せ餌が大きければ大きいほど食らいつく者も多くなる。それだけに他の奴らと鉢あってつぶし合いなんてのが起きてそれに巻き込まれたら色々と面倒だ。


 ただまぁ、一応魔物の位置くらいは確認しておくか。

 フラミィが押していた場所を思い出し、腕輪から地図を顕現させると、大型魔物を示しているのであろう竜のマークを確認する。


「ってこれ……」


 予想外の事実に思わず声が漏れる。

 よく見れば、複数点在する竜のマークのうち一つが赤点のすぐ近くにあった。距離にすれば二百メートルも無いだろう。そしてこの赤点が示す存在は、俺だ。

 大型の魔物がいる方向へ目を向けた刹那、地響きと巨大な咆哮が草木を揺らした。

 すぐそこならちょっと行ってみるか。

 



 木々の間を駆け抜けると、拓けた場所に出て、身丈の三倍はありそうな魔物が土を蹴っていた。たぶんあれはマルムボアという魔物だろう。図でしか見た事が無いが、二本の角とたてがみ、むき出しの鋭い牙に硬度の高そうな蹄は昔見た魔物図鑑の図と同じだ。


 周りを見れば、魔物以外の姿は無かった。どうやら、まだ誰も到達していないらしい。


 さっさと決めてしまおうと不如帰を構えると、素早く振り返った凶悪な紫の眼が俺を睨み付ける。


 そのままマルムボアは厳かな角を携え、突進。俺は即座に地面を蹴りつけると、右方に回避。


 身を返し、マルムボアに目をやると、既に蹄を踏み鳴らし、鋭く太い角をこちらに向けていた。巨躯の割に動きは素早いらしい。


 第二撃に対処するため、不動之備ふどうのそなえをとる。基本的に刀剣術は対人を基礎としているが、精神の統一、及び相手の動きを分析しやすいようにするという意味では魔物相手にも十分通用する。


 同時、マルムボアが驀進。鋭利な角が俺の心臓を貫かんと肉迫する。

 俺は左足を軸に、回転。紙一重を通り過ぎる巨躯の後ろ脚に刃を入れ込む。


 響く獣の悲鳴。マルムボアは体制を崩すと、勢い余って地面に突っ伏した。

 今こそ好機と俺は踏み込み、飛翔。

 なんとか立ち上がるマルムボアの背に不如帰を突き立てた。


 瞬間、マルムボアが破裂すると砂塵が飛ぶ。魔物は生命線でもあり魔力源でもある心臓を一突きすれば、肉も血も何もかも灰と化す。


 動物と違い亡骸が残らない理由は完全に解き明かされていないが、魔物とは、生物の持つ魔力が超反応を起こし、細胞組織そのものが魔力のものに再構築される事で生まれるという。故に心臓という魔力の供給源を絶つ事によって、魔力そのものである細胞に急激な劣化現象を引き起こし、それが形となったのがこの灰らしい。


 魔法学をまともに勉強していない俺には正直意味が分からないが、おかげで血で汚れないから嬉しい限りだ。


『最初にマルムボアを倒したのはファーストアタックを成し遂げたクロヤ・シラヌイだ!』


 灰が土を覆いつくす中アナウンスを聞きつつただ一つ妖美な紫色を湛える石があるので拾う。


 なるほど、小型の魔物とは比にならない大きさと重さだ。腕輪に魔鉱石を吸収させると、不意に草を踏み分ける音が聞こえる。


 刹那、何やら飛んでくる気配があったので不如帰を振るうと、軽く火花が散った。

 すぐそばを石ころが跳ねた事から、何者かによって岩の魔法が放たれたらしい。


「ポジションA!」


 木の間から飛び出したのは制服姿の生徒。同時に周りに気配が分散する。

 どうやら囲まれたらしい。徒党を組んだ連中だろう。

 数は五人、か。今の俺に勝てるだろうか。ただ、早々と退場するわけには行かない。ここは安全策を取ろう。


「ヒイラギ、力を貸してくれ」


 先見の能力を顕現すると、視界に青色が混じる。

 数秒後、同時に左右から放たれるらしい魔法が見えた――

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