第25話


 エクレと練習を始めてから気付けば一週間たっていた。

 遂に新人戦当日だ。


 先ほど配られた、新人戦の際に必要という魔法具の腕輪が気になりつつ、辺りを見回してみる。


 大よそ百数十人はいるだろうか。一年生の大半は出場するようで、裏山入口前には多くの生徒でごった返していた。

 俺はその中からフラミィを探し出し、話しかける。


「ようフラミィ」

「おっ、クロヤじゃねーか」


 目的はエクレといつも練習していた地点にフラミィが来るように仕向ける事だ。フラミィの事はだいたいエクレに聞いたし、俺自身も多少知った仲だから恐らく成功するだろう。


「フラミィは誰かと組んだりするのか?」


 徒党を組んでいるらしい生徒を見つつ尋ねると、フラミィは肩をすくめる。


「まさか。群れて行動するなんざ俺のポリシーにはあわないね」

「だろうと思ったよ」


 無いとは思っていたが、これでもし誰かと組んでいたのなら、どうにかフラミィを一人にさせなきゃならないので、多少手間取る事になっただろう。


「そういうクロヤはどうなんだよ? 言っとくが、俺と組もうって誘いなら流石のクロヤでもお断りだぜ」

「それこそまさかだよ。俺もフラミィと同じだ。ただ、誘いっていう点に関してはその通りだけど」

「へぇ?」


 フラミィの目には興味の色が示される。とりあえず聞く意思はあるらしい。


「俺とちょっと賭けをしないか?」

「賭けだって?」


 確か腕輪を使えば地図が映せたはず……だけど、なんだこれ、どうすればいいんだ?


「悪いフラミィ……地図ってどう出すんだっけ」

「ああ、それなら」


 フラミィが腕輪にいくつかおうとつがあったのでいじると、不意に光の壁が現れ裏山の地図を映し出した。こんなあまり分厚くもない腕輪に地図が入ってるとは、西洋の道具は本当によく分からない。


「……助かった。話を戻すけど、四時半くらいにここに来てほしいんだ」


 緑色の地図の中でも、薄い緑になっている地点を指さす。


「けっこう拓けた場所だな……。で、なんでまた?」

「簡単だよ。終了時間は五時。その三十分前にここで落ち合って、俺と集まった魔鉱石の取り合いでもしないか? って話だ」

「ほう」


 フラミィは吟味するかのように目を細めると、やがて口を開く。


「罠という可能性は?」

「罠を仕掛けられるような地形じゃない。複数の待ち伏せであれ、何か小細工を仕掛けるであれ、遠くから見たら一発で分かるだろうよ」

「なるほど。じゃあクロヤが楽して稼ごうとしてる可能性も考えられるんじゃねーか?」

「そんなせこい事をしない、と言いたいところだけどそうだな。魔鉱石がフラミィと同等かそれ以上の場合だけ勝負をするって事でどうだ? もしあまりに俺の方が少ないようなら全力で撤退すればいい。俺も全力で撤退するフラミィに追いつく自信は塵一粒も無いよ」


 言い終えると、フラミィは少し考える素振りを見せるが、やがて頷く。


「よし、その勝負乗った。でもちゃんと生きとけよ? 俺と戦う前にくたばられちゃ張り合いがない」

「当然そのつもりだ」


 さて、とりあえずフラミィの説得には成功した。エクレも言っていた通り、やはりフラミィは勝負事がけっこう好きらしい。一つ間違えれば最下位になりかねないバクチだというのに受けるとは、肝っ玉の大きさには感服させられる。


 ただ、フラミィには悪いが俺はこの約束を反故にする。手出しはしないが、戦うのはエクレだ。故にフラミィとの賭けは俺との間には成立しない。


 もしどちらかが勝てば、魔鉱石を移動して一方が凄まじい量を得て間違いなく優勝になるだろうが、この際それは仕方がない。別に優勝じゃなくてもポイントはそれなりに貰えるからな。俺は大人しく準優勝あたりでも狙わさせてもらおう。


『開始十分前にになりました。新人戦に挑む生徒は、裏山第五演習所前、転移術式の組まれた魔方陣に集まってください。定時になり次第各地点にランダムで演習場内に転送します』


 不意に女性の声がところこどに立っているよく分からない機械マキナから聞こえると足元に幾何学が現れ、青白い光を放つ。


 どうやらここら辺一帯は魔方陣の中だったらしい。

 少し離れたところにいるエクレに目配せすると、小さく頷きを返してくる。エクレにはあらかじめどう動くかは伝えてある。


 やがて定刻になると、景色が歪み、気付いたら自然の中にいた。

 新人戦が始まる。

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