01 やる気のない男

 「両者、戦闘用意…開始!!」

 開戦の合図と同時に炎が吹き荒れた。

 「焼き尽くせ!フレイムブラスト!」

ベージュの制服を身にまとった男が杖を振りかざし叫んでいる。その炎を切り裂き、一振の剣が男に迫る。男はすんでのところで剣を受け止め、杖の先端で爆発を起こし距離をとった。煙が晴れ、ようやく視界が開けるとそこには深紅の制服を身に纏った女の姿があった。

 「範囲拡張レンジブースト!!」

 女がそう言い放つと彼女が持っていた両手剣が輝き、刀身がフィールドの半分ほどの大きさに変化した。彼女は剣を構え、勢いよく振り下ろした。

 「甘い!炎よ我が元に!フレイムスフィア!!」

 男は杖を振り上げ頭上に巨大な火球を形成、迫り来る剣に向けて放った。

 炎と刃が今、ぶつかり合う――


 ここは太平洋沖に浮かぶ人工島。その面積は約200k㎡ほどである。通常の生活では起こりえないことだが、この島に暮らす者にとっては至って普通の出来事である。【SHELL】――ある日起きたら「目覚めて」ました、って感じの人々を集め、そうでない普通の人々と隔離し、研究する巨大施設として建設されている。

 そこには二大学園都市とでも呼ぶべき教育機関が存在する。私立冥ヶ崎学園と国立光織学院だ。生徒の能力を育成するという基本理念は共通しているが、互いにライバル関係にある。

 「あいつの剣、面白いな。」

 スタジアムの客席から試合を見ていた、女と同じ深紅の制服を着た男はそう呟いた。

 彼の名は矢車竜胆やぐるまりんどう。私立冥ヶ崎学園の生徒である。

 「次の対戦は、30分後に開始します。」

 「…帰るか。」

 竜胆は飲みかけの缶コーラを飲み干し、帰路に着いた――


 数日後、竜胆は学校へ向かった。冥ヶ崎は私立なだけあって、高校にしては珍しく大学のように必修科目以外は自分の好きな科目を受講するような授業システムになっている。割と面倒くさがりな竜胆はあまり好き好んで学校に行くようなタイプでは無いのだが、今日は一年生全員参加のイベントがあるとかで、仕方なく学校へ登校していた。

 学校に着くと、竜胆と同じ制服を着た生徒が流れるように体育館に向かって行く光景があった。竜胆もそれに混ざり体育館へ向かった。


 「本日は、新入生合同模擬戦を行います!」

…ものすごくめんどくさいやりたくない。

 だがしかし行事は行事、俺もこの学校に在校している以上、参加しない訳にはいかない。とりあえず、俺はトーナメント表を見に行く事にした――


 体育館中央にある巨大なモニターに冥ヶ崎一年全員の名前が入ったトーナメント表が映し出されている。大量にある名前の中から自分の名前を見つけ出すのは割と至難の業だ。

 「えーっと?俺の相手はと…あれか。」

俺はやっとの思いで自分の名前を見つけ出した。

 「対戦相手は桜泉寺芽咲おうせんじめいさ…なんかお嬢様っぽい名前だな、面倒くさい奴じゃなきゃいいが…」

 しばらくして自分の出番が来たのでフィールドに上がる。すると対面に、桜泉寺芽咲と思われる人影が現れた。

 「あら、あなたが私の初戦の相手かしら。あまり大した強さではなさそうね。」

 「…はぁ。俺もついてないな…。」

 俺は思わずため息をついてしまうほど見事にフラグを回収した。明らかにお嬢様。見た目がもうお嬢様のそれである。おまけに初セリフが罵倒からのスタート。もういっそ清々しいですよ、ええ。

 「あら、何かしらその態度。私は見たままの感想を述べたまでよ。」

 「え?…あぁ、そっすね。」

 「もしかしてあなた、私を馬鹿にしているのかしら。まあいいわ。馬鹿に出来ないほど完膚無きまでに叩き潰して差し上げますわ。」

 もはや呆れすぎて話の半分も聞いていなかった竜胆はとりあえず家に帰ることを目標に武器を構えた。

 「まあ、お手柔らかにお願いしますよ、お嬢様」

 桜泉寺も、彼女の武器と思われる煌びやかな金色の扇子を広げ構えた。

 「手加減しても叩き潰してしまったらごめんなさいね?いくわよ!」

  やる気のない男とお嬢様による、トーナメント初戦の幕が上がった。










 




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