第4節 『スレイヤー』とはそういうものなのよ
いもしない涼香の妹へとプレゼントは、紆余曲折を経て購入することに成功していた。そのプレゼントは変な形をした良い香りのするちょっとお高い石鹸であった。
葵が「まあ、これなら外れないでしょう」という結論を出し、涼香がその言葉に乗っかるようにしてプレゼントを決めたのだ。
と、そのタイミングで龍崎は作戦を練り直すことにした。
葵がお手洗い向かったのを見計らい、龍崎は隣に座る涼香に話し掛ける。2人は『あるふぁ』内に設置られてる休憩用ベンチに腰を落としていた。
「浮舟。どうにかして受験方面の話しにしてくれ。なんか……そうだな……本屋とかどうだ? 参考書とかあるだろうし、そっから適当に話しを引っ張ってくれ」
すると涼香はコクリと頷いた。
「ではそうしましょうか。なんとなく勉強の話しになるでしょうし。まあ、大船に乗った気でいなさないな。まったく、完璧に信用してくれていいわ」
「……その大船って泥船とかじゃねーよな。沈まないよな?」
そう言って龍崎が怪訝そうな顔をすると、涼香は「ふふっ」と笑った。
「あら、言うようになったのねヒュドラ君。まあ、任せておきなさい」
と、涼香が言って立ち上がった瞬間、彼女はふらっとよろめいた。まぶたをフッと閉じ、一歩二歩と足が動く。それから、つっかえ棒のようにして両手を両の膝に当てた。
そんな涼香を見た龍崎は少しばかり腰を浮かす。
「おい、浮舟」
龍崎が涼香の顔を覗き込むと、彼女の顔は疲労を滲ませていることを知った。
「……別に大丈夫よ。ちょっと疲れただけ」
「疲れたって‥‥…あれか? 体力ないのか浮舟って」
披露の色を見せた涼香を見て龍崎はそう思った。と言っても、今日はそこまで歩いていない。女の足であっても、たかが知れているほどしか歩いていない。
だが涼香は「いえ、そうではなくて」と言って再びベンチに腰を下ろした。
「……一ノ瀬さんに湧いた『カワイガリ』を狩ったときの疲労が……というより消耗しているのよ。さすがに二日続けて闘うのはしんどいね」
と、言われて龍崎は「ああ」と言葉をこぼす。確かに涼香はオール黒ジャージの翌日に一ノ瀬と闘っている。涼香が疲労しているというのも、わからないでもない。
「……そうなのか。いや、なんだ。そんな状態なのに……すまんな。今日は」
すると涼香は肩をすくめた。
「別に構わないわ。それに、『スレイヤー』とはそういうものなのよ」
と、涼香が言った辺りで龍崎は視界に葵の姿を捉えた。彼女はてくてくと、コチラに向かって歩いて来ている。
そこで涼香がすっと立ち上がる。
「それではヒュドラ君。手ハズ通りに」
「わかった。すまんけど、頼む」
そう言って龍崎もベンチから立ち上がった。
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